【女と男の隔たり】セフレと恋人の境目 ~最終夜~


「ごめん、今日は終電で帰るね」


 最後の七海とのセックスが終わったあと、僕はそう言って服を着て家を出た。七海は何も言わなかった。

 真っ暗な住宅街を歩いて駅へと向かう。この街での夜はずっと、七海とベッドの中で過ごしていた。初めて見るこの街の夜中は、静けさが漂いすぎていて、とても不気味だった。

 おそらくもう七海と会うことはないだろう、という感覚が体全身に広がっていく。付き合うという意志を持てなかった関係の、終わりはあっけない。

 もう少しで駅前にでるという時に、静かな住宅街に携帯の着信音が響き渡った。画面には「七海」と書いてあった。


「もしもし」


 電話越しから、涙をすする音が聞こえる。

 その音が引き金となって、罪悪感が僕の心を支配し、自然と頬に水滴がつたう。


「七海…ごめんなさい」


 そう言うのが精一杯だった。


「ううん、こっちこそごめんなさい」


 人は出会った瞬間に、別れの可能性を抱きながら関係性を築き始める。そのことに気づくのは、いつだって別れが目の前に来てしまった時だ。


「俺、本当は働いてないんだ。ニートなんだ。今まで嘘ついてて、ごめん」

「知ってたよ。働いてないこと、知ってたよ」


 大切なことはいつだって、何かを失う時に気づく。


「嘘をついててごめんなさい」


 セフレという関係を選択した僕と七海。


「本当に今までありがとう」


 七海とのセックスは本当に楽しかった。


「もう会えないんだね」


 涙声ではなく、力強い声で七海はそう言った。


「私も、隔たりに会えて楽しかった」


 出会った頃からずっと、七海は優しかった。


「会えなくなるのは寂しいけど…しょうがないよね。私たちは恋人じゃないから」


 うん、と僕はか弱い声を絞り出す。

 セフレのような恋人で、恋人のようなセフレだった七海。

 もし違う出会い方をしていたら、僕らはまた違う関係を、ちゃんとした恋人としての関係を築けたのだろうか。

 静かで真っ暗な住宅街を抜け、駅前の道へと出た。数々の店のネオンがきらびやかに光っている。


「そしたら、駅に着いたから」


 頬を濡らした涙を拭き、僕はそう言った。同じように、涙を拭う音が電話越しに聞こえる。


「うん、わかった」


 1度大きく深呼吸をして心を落ち着かせる。

 そして、七海への最後の言葉を、口にした。

 その言葉を聞いて、七海は僕と同じ言葉を口にした。

 深夜の柔らかな風が頬に当たる。

 涙の流れたところだけが、ひんやりと感じる。

 その上をまた、あたたかな水滴がゆっくりと流れ落ちた。

 (完)

 

(文=隔たり)

 暖かさを感じるのは、寒さを知っているからだ。裸でベッドに寝転がっていると、肌に触れている部分が冷たく感じる。ベッドには体温がない。人の肌は、人の肌に触れた時だけ、暖かみを感じる。そして肌の奥にある、人の内側に触れると、そこは火傷しそうなほど熱い。今、下半身だけが、熱い。

 セックスした次の日の目覚めは早い。それは興奮の名残によって眠りが浅くなるからだ。七海と触れ合った感触がまだ、身体の至るところに残っている。

 挿入よりもキスが好きだ。キスをしていると、もう挿入なんてしなくていいと思ってしまう。なんなら、たくさんキスをしたいという理由で、セックスがしたいとさえ思うこともある。

 下半身の違和感で目が覚めた。目をこすり、顎を引くようにして顔だけ上げると、裸の七海がベッドに腰掛けていた。七海の手は布団の中に潜り込んでいる。

 生で挿入した時の気持ち良さは、いつだって想像を超えていく。たった0.03ミリの薄い膜があるかないかだけの違い。挿入の快楽において、その0.03ミリという差は圧倒的に大きい。

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