【女と男の隔たり】セフレと恋人の境目 ~最終夜~

「ごめん、嫌だったら言ってほしい。嫌じゃなかったら、舐めさせてほしい」


 体が熱くなると同時に、僕は「クンニ」に対して執着し始めていた。七海に断られると、余計に執着したくなる。


「えー、どうしよっかな」


 七海は再び「うふふ」と笑った。七海は明らかにこの状況を楽しんでいる。僕の中に「怒り」が沸き上がっているとも知らずに。


「じゃあ、別にもういいよ」

「えっ」


 吐き捨てるような言葉が、僕の口からこぼれ出た。


「舐められたくないなら、舐めないよ。嫌なんでしょ? ならいい」

「え、そういうわけじゃなくて」

「じゃあ、どういうわけ?」


 語気の強くなった僕の言葉に七海は驚き、そして言葉を失っているようだった。


「別に舐めないから、もういいよ」


 僕は体を起き上がらせて、ベッドの端に腰掛ける。


「ごめんなさい。その…なんか、恋人みたいにいちゃいちゃしたくなっちゃって」


 七海は僕の背に軽く触れながらそう言った。その声は震えていた。

 恋人みたいにいちゃいちゃしたい、と七海は言った。

 おそらく、


「舐めさせてよ」

「恥ずかしいからやだっ」

「えーいいじゃん」

「もう、しょうがないなぁ」


 というやり取りをしたかったのだろう。

 しかし、僕は「恥ずかしい」「嫌だ」という七海の言葉を、否定として受け取った。僕がせっかくクンニをして気持ちよくさせてあげようと思ったのに断るなんて、と善意を踏みにじられたような気分になった。

 恋人かセフレか。ずっと悩んでいた七海との関係性。七海の優しさと、そして自分の頭で考えた結果、「セフレ」という関係を僕らは選択した。

 その選択をしてから、皮肉にも僕らは「恋人」のような日々を過ごした。その日々は再び、僕らが恋人かセフレか、ということを曖昧にしていた。

 このまま進んでいくのだろう。恋人なのかセフレなのか。関係はなんだっていいのだ。一緒にいれて楽しければ十分だ。そう思って日々を過ごしてきて、今。

 恋人のようにいちゃいちゃをしたい。そんな気持ちから生まれた七海の行動を見て、僕の中に怒りが湧き上がってきた。その感情が、頭で考えた解ではなく、内側から湧き上がっていた本能的な解を叩き出す。

 別に僕は、七海と恋人ごっこがしたいわけじゃないんだ。

 七海とのセックスの気持ち良さがいつしか、「七海と付き合う」という気持ちを、圧倒的に飛び越えてしまった。今の僕はただ、七海とセックスがしたいだけなのだ。

 七海は僕の背中に触れながら、言葉を待っている。僕は感情を押し殺して、つぶやくように言った。


「そういうのはいらない。七海と普通にセックスがしたい」


 僕は振り向いて七海を抱きしめ、そのまま押し倒した。七海は泣きそうな顔をしていた。その顔に激しくキスの雨を降らす。

 唇が重なると、当たり前のように舌が絡まりあう。七海の舌は柔らかくて気持ちいい。先ほどまでの空気が嘘のように、七海も目をつぶってキスに没頭していた。これでいい、と心の中で呟く。僕らはこれでいいのに。

 キスをしていると、七海の手が僕のモノに触れた。


「舐めて欲しい」


 僕がそう言うと、七海はいつものようにモノを舐め始めた。裏筋、カリ、亀頭。柔らかな舌で敏感な部分を丁寧に刺激してくる。これでいい、と再び思った。いま七海が僕を気持ちよくしてくれているように、僕もクンニで七海を気持ちよくさせたかった。ただその行為をさせて欲しかっただけなのに。

 モノ全体を舐め終えると、七海はモノを口に含んだ。そして口をすぼませながら、激しく吸引し始める。相変わらず、七海のフェラは気持ちいい。

 そう、これでよかったのに。僕らはただ相手を気持ちよくさせあう。セックスを楽しみあう。それでよかったのに。

 七海のフェラ顔を見ながら、僕は何度もそう思った。

 

「そしたら、入れようか」


 七海を寝かせ、ゴムを取ろうとベッドを降りようとした時だった。


「つけなくていいよ」

「えっ」

「生で大丈夫」

「いや、でも」

「生は嫌?」


 七海は不安な顔をしていた。さっきのことに対する、七海なりの謝罪方法なのかもしれない。


「嫌じゃないよ。七海がいいなら、生でする」

「うん」


 僕はゴムを取りに行くのをやめ、七海の足の間に体を入れた。


「そしたら入れるよ」

「うん」


 生の状態のモノが、七海のアソコの中へ入っていく。

 その前にどんなことがあったって、性器が生で絡まり合う時の快感は裏切らない。


「腰振るよ」


 僕は体をおろして七海を抱きしめる。七海も僕の首の後ろに手を回した。そして深いキスを交わしながら、腰を振る。


「んっ、んっ、好きぃ、好きぃ、好き!!」


 七海は何度も「好き」と声をあげた。これが七海との最後のセックスだった。

 

 もし七海が僕の彼女だったとしたら。僕はニートであることをちゃんと話せていたのだろうか。

 もし七海が僕の彼女だったとしたら。僕は七海が望んだいちゃいちゃにイラつくことはなかったのだろうか。

 セフレや恋人という関係性なんてどうでもいい。恋人なんてただの口約束だ。一緒にいて楽しければいいんだ。そう思って七海と約1ヶ月間過ごしてきた。

 その1ヶ月は本当に楽しい時間だった。恋人にならなくたって、恋人のような楽しさを味わうことできるとさえ感じていた。

 けれど、その中で七海に伝えられなかったことがたくさんあった。働いてないこと、悩んでいること。そういう状況が、七海とのズレを生み、関係性を終わらせてしまった。

 七海と一緒にいる間、ずっと考えていたことがある。セフレとは何か。そして、恋人とは何か。

 セフレとはおそらく、セックスを楽しみ合う関係のことだ。それ以上でもそれ以下でもない。セックスが楽しめなくなってしまったら、その関係はあっけなく終わってしまう。

 そして、恋人とは。

 僕は付き合うことなんてただの口約束だと思っていた。だから、その言葉があるかないかというだけで、根本的にはセフレと変わらないと思っていた。

 でも、それは違かった。付き合うという口約束には「あなたと一緒にいたい」という意志が含まれている。その意志が何より大事なのだ。悩んでしまった時や苦しいことが起こった時に、その意志がふたりの関係を支えていく。恋人という関係を作り上げようと努力する。その想いによって、相手に悩みを打ち明けたり、弱みをさらけ出せたりできるようになるのだ。

 そうやって築き上げた関係は強固になる。ずっと一緒にいるには口約束でも「付き合う」という言葉は必要で、それを支えにしながら恋人たちは関係を作っていくのだと、僕は七海と別れることで初めて知った。

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