ま、いざとなったら室内を真っ暗にすればいいだけの話だよな…
そう覚悟を決めた筆者は、いつものノリでユナちゃんを先導してホテル街に向かうこととなった。
「ユナちゃんはよく新宿に来るのかな?」
「そうですねぇ。買い物で来るくらいですね」
「じゃあ、歌舞伎町とかはほとんど来たことないんじゃない」
「何度か食事で来たことがあるくらいです」
マスクのせいで表情は不明だが、一応会話のキャッチボールはできるみたいだ。
しかし、話がなかなか盛り上がらない。これはユナちゃんに問題があるのではなく、こちらのテンションのせいだろう。
守備範囲の広さを誇っている筆者だが、どうしてもキツネ目の女性に対しては生理的嫌悪感を拭いきれないのだ。
ホテル街に到着すると、激安のラブホテルにチェックイン。ワンルームマンションに毛が生えた程度の部屋しかないところだ。
本来なら、もっと低価格のレンタルルームを選択するべきなのだろう。だが、見栄っ張りの性格ゆえによほどのことがない限りホテルタイプを選択してしまう。
部屋に入ると、ユナちゃんに手洗いとうがいをするよう促す。
そして、ついに彼女のマスクが外された。
え!? 出瀬潔?
80年代に少年ジャンプで連載されていた『ハイスクール!奇面組』。主人公の同級生のひとりである“出瀬潔”と顔が瓜二つだったユナちゃん。
キツネ目でありながら、輪郭は五角形。まさにホームベースみたいな顔で、エラが鋭利なまでに尖っていたのだ。
ぶわっ!
突然大量の汗が背中に滲んできた。こんな事態は生まれて初めてのことだ。
数々のモンスターを狩ってきた筆者だが、キツネ目とエラ張りの要素を同時に兼ね備えている女性は大の苦手。
滅多に顔パスしないのを信条にしているが、このタイプだけは迷うことなく避けるようにしているのだ。
ぐぬぬぬぬっ!!
口内の唾液が苦みを増してきた。全身の細胞が、彼女を拒否している。
だが、時すでに遅し。ホテル代も支払っているので、今更後戻りはできない。こうなったらさっさと射精し、帰宅するのが正解だろう。
「じゃ俺は一服してるから先にシャワー浴びておいで」
ベッドに腰掛けながら煙草に火を点ける。いつもなら女性に一言断ってから喫煙するのだが、そんな気遣いをする余裕は完全に消えていた。