「わっ! 写真で見るより本物のほうがずっとイケメンじゃないですか!」
開口一番、そう告げてきたマサミちゃん。
おろ? 案外このコはいいコかも!?
我ながらなんてチョロいのだろう。容姿を褒められた途端、先ほどまでのドス黒い感情が消えてしまった。
「あ、ありがとう。ま、マサミちゃんだよね?」
「はい。今日は来てくださってありがとうございます」
「あ、う、うん」
いつもならここで相手を褒めて様子を窺うところだ。だが、根が正直な筆者は、マサミちゃんを褒める言葉が何ひとつ思い浮かばなかった。
目をウルウルさせて下から覗き込んでくるマサミちゃん。
鬼になれ! 鬼になるんだ、ショーイチよっ!
心の中で内なる自分が叫んでいた。一時の感情で流され、こんなおデブちゃんとセックスしたって後悔するだけだ。
しかし、そうだと分かっていても、鬼にはなれなかった。
筆者のことをイケメンだと言ってくれる女性は貴重だ。そんな女性に冷たい態度を取ることがどうしてもできない。
「こ、こちらこそ、今日はよろしくね」
そう答えるのが精いっぱいだった。
この返答を「OK」だと受け取ったのだろう。急にマサミちゃんが横に並んで身体を寄せてきた。腕組みしてきそうな勢いだ。
さすがにそれは勘弁!!
キュっと脇を締め、隙を見せないようにする。
「そ、それじゃあ、とりあえず歩きながら話そうか?」
「はい♪」
明るい笑顔で答えるマサミちゃん。だが、見れば見るほどシンガーソングライターの岡崎体育に似ている。
思わず吹き出してしまいそうになったので、慌てて彼女から視線を逸らす。
いつものようにホテル街に向かって歩き始める。だが、筆者の気持ちはまだ固まっていなかった。
「ショーイチさんはあのサイト、よく使うんですか?」
「あ、う、うん。たまにね」
「私は今日で2回目なんですよ。ショーイチさんみたいな人も使うんですね」
「ん? どういうこと?」
「だって、ショーイチさんモテそうじゃないですか。そういう人も使うって意外でした」
「も、モテたりしないよ、俺は」
「でも、優しそうだし、イケメンだし、欠点なさそうですよ」
「ち、違うって。俺なんか欠点だらけの人間だよ」
「フフフ、謙遜しないでください」
どうにも調子が狂う。やたらとマサミちゃんがこちらを褒めてくる。
顔パスされなかったことがよほど嬉しかったのかもしれない。
「この辺に来たの初めてです」
「ふーん、そうなんだぁ」
「なんだか怖そうなところですね」
聞いてもいないことをペラペラ喋り続けるマサミちゃん。
こちらはただただ生返事を繰り返すしかない。
そうこうするうちにお目当ての激安ラブホの前に到着した。
「ここにしようか?」
周囲のラブホテルよりグレードが低いので、外観も安っぽい。それを見て、マサミちゃんが文句のひとつでも言ってくれることを密かに期待していた。
もし彼女が嫌そうな素振りをしたら、「じゃあ、今日は止めようか」と言ってサヨナラする気だった。