だが、筆者は極力顔パスしたくない。
なぜなら、筆者は顔パスされる側の人間だから!
過去に何度も顔パスされたことがあるので、その悲しみや苦しみは痛いほどよく分かっているつもりだ。
だからこそ、己がそんな負の感情を生み出すきっかけになりたくないと思っている。
たとえどんな化け物が相手だろうと、逃げることなくきちんとお断りする。苦行にも似た行いだが、これらの経験値も決して馬鹿にはできないはずだ。
そんな事を考えながら近づいていくと、アイミちゃんの顔の造作がはっきりと見えた。
おろっ? 結構、イケんじゃネ!?
体型の事はひとまず置いておくとして、アイミちゃんの顔は女優の杉田かおるを数倍くらい地味にした感じだった。
ち、チー坊だったら、ギリセーフかな?
1972年に大ヒットしたドラマ『パパと呼ばないで』。当時7、8歳でヒロインを演じていた杉田かおるは、叔父役の石立鉄男からチー坊と呼ばれていた。
杉田かおるより数歳年下の筆者は、大人びたお姉さんという印象でドラマの中の彼女を見ていたものだ。
それゆえ、アイミちゃんに対して妙な親近感を覚えてしまったのだ。
ま、体型は救いようがないけど、オッパイも大きそうだから「アリよりのアリ」と決意したのである。
「こんばんは。アイミちゃんかな?」
「あ、はい。ショーイチさん?」
「うん。今日はよろしくね」
「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」
ペコっと頭を下げながら挨拶してきたアイミちゃん。社会人として会社勤めしているだけあって、一応の常識はわきまえているようだ。
「さっそくだけど、俺みたいなので大丈夫かな?」
「え?」
「ほら、俺って見るからにスケベそうな顔してるでしょ? ヒいたりしてないかな?」
「そ、そんな。全然ヒいてなんかいないです」
「あ、ありがとう。それじゃあ、このままホテルに行くってことでいいかな?」
「はい。お願いします」
彼女の口からお約束の言葉が出てこなかった。
このタイミングで、「ショーイチさんこそ私みたいなので大丈夫ですか?」と聞いてくるのがセオリーというものだ。
その質問に対してどう返そうかと色々なアンサーを用意していたのだが、無駄になってしまった。
ま、無理もないだろう。
アイミちゃんは出会える系サイト遊びに慣れていないので、そういう約束事を知らないのが当然だ。
それに、先月まで彼氏がいたという自負があるはずなので、己の容姿に対して不安を感じたことがないのかもしれない。
その大きな間違いを正してあげるのも優しさというものだろう。だが、無償の愛の伝道師を自称する筆者であっても、そこまで面倒は見切れない。
「じゃ、行こうか?」
そう声をかけて北口階段を目指すこととなった。