「実際の俺はこんな感じだけど、大丈夫かな?」
「え?」
「もしキモいとか、無理そうだと思ったら、ここでバイバイしてもいいんだからね」
「そ、そんなことしませんよぉ」
「本当に? 怒ったりしないから正直に言っていいんだよ」
「大丈夫です! それより、ショーイチさんのほうこそ私みたいなので大丈夫ですか?」
「もっちろんだよ! ほら俺の顔を見て。嬉しそうにしているのが分かるかな?」
「うーん、どうでしょう。よく分からないです」
「普段はね、もっと難しそうな顔をしてるんだよ。でも、今は嬉しいからコレが喜んでる顔なんだ」
「フフフ、女性を褒めるのに慣れてそうですね」
「そ、そんなことないよ。これでも今、心臓がバックバクなんだから」
「へぇ。でも、接客業か何かなんですか? しゃべるのに慣れてそうですよ」
「今は接客業じゃないよ。昔はバイトしてたことあるけど。そういうモエちゃんは何関係のお仕事なの?」
「い、一応、アパレル系です」
「へぇぇ。そうなんだぁ。あ! ここで立ち話もなんだから歩きながら話そうか?」
「はい!」
イケフクロウを離れ、北口階段出口に向かって歩き始める。
「あ! もしかして職場は渋谷とかオシャレそうな街なのかな?」
「え? どうして分かるんですか?」
「ほら、モエちゃんが池袋を指定してたでしょ? 職場から少しでも遠いところで会いたかったのかなぁって」
「は、はい。その通りです」
「安心してね。別にモエちゃんを詮索しているわけじゃないよ。なんとなくそう思っただけだからさ」
「はい、大丈夫です。別に疑ったりしてませんから」
「でも、アパレル勤務だと休みが不規則で大変そうだね」
「そうですね。なかなか友達と予定を合わせるのも難しくて…」
「それだけ綺麗なんだから、彼氏とかいるんじゃないの?」
「ぜ、全然ですよ。もう5年くらいそっちはないですね」
「そうなんだぁ。それじゃあ、仕事場と家の往復て一日が終わっちゃう感じ?」
「はい。実家に住んでるので、家事をあまりしないで済むのが助かってます」
「分かるなぁ。仕事で疲れてる時に、家事するのは大変だもんね」
「でも、そのせいでどんどん枯れてきちゃってます」
「何言ってるの! それだけ綺麗で可愛いんだから、モエちゃんがその気になれば5分で彼氏を作れると思うよ」
「フフ、やっぱり慣れてそうですよ。女性を扱うのが」
「そ、そ、そんなことないよ。こ、これでも、か、かなり無理してるんだから」
わざとらしくない程度に言葉を詰まらせ、草食系を装う。
そうこうしているうちにお目当てのラブホテルに到着。
無事にチェックインを済ませ、部屋でようやくふたりきりとなった。
「寒いけど、外は乾燥してたね」
「は、はい。そうですね」
「まずは座って、喉を潤そうよ」
「は、はい」
途中の自販機で購入してきたペットボトルのお茶を飲みながらおしゃべりすることに。
「あれ? どうしたの? さっきより緊張してるんじゃない?」
「え、あ、あの。こ、こういうところに慣れてなくて…」
筆者はあえて慣れない振りをしていたが、モエちゃんは本当に慣れていないのだろう。