「大丈夫だよ。そんなに緊張しなくても」
「え?」
「もし嫌だと思ったら、ここでサヨナラしてもいいんだからね」
「は、はい」
「メールでも約束したけど、チナツちゃんが嫌がることは死んでもしたくないんだ。だから、少しでも嫌だっていう感情があるなら無理しないでほしいな」
「ご、ごめんなさい。全然嫌とかじゃないんです。ほ、本当に緊張しちゃってて…」
「うん。それが当然だよね。俺も実はすっごく緊張してるんだよ」
「そ、そうなんですか?」
「うん。お、俺もこういうのに慣れてないから、心臓がバックンバックンしてて背中に汗をかいてるんだ」
彼女の緊張をほぐすため、身振り手振りで大げさに表現してみる。
わざと言葉を噛んでみたりして、純朴そうなアピールも忘れない。この偽装スキルも長年の経験による賜物だ。
「フフ、そんな風には見えないですよ」
「え?」
「じょ、女性を扱うのに凄く慣れてそうです」
「ん、んなことないって。ナンパとかそういう真似もこっぱずかしくて一度もしたことがないんだから」
「は、はい」
「じゃ、もう一度聞くけど、嫌じゃないのかな?」
「はい。もちろんです!」
ラブホ街に向かって歩き始める。相手は人妻なので、あまり距離が縮まらないよう、歩く速度を調整することも忘れない。
そして、いつもより少しばかりグレードの低いラブホに到着。
女性の見た目によってラブホを使い分けている筆者だが、相手からしてみたら気付くことはない。これも無駄な出費を抑えるための涙ぐましい努力のひとつだ。
室内でふたりきりとなり、本題を切り出すことにした。