ドキっドキドキドキんッ!
デート前にこれほど緊張するのは何年ぶりだろう。
見知らぬ男の部屋を訪ねるデリヘル嬢の気分って、こんな感じなのか…。
6階で降り、ドアの前で深呼吸してからチャイムを押す。
ガチャ。
K美チャンは、ドアを少しだけ開けて顔を見せてくれた。
もらった写メ通りの顔立ちだった。身長が150センチほどということで、背の低さも手伝って実年齢よりずっと若く見えた。
「あ、あ、あの、き、きょうはありがとうございます!」
緊張のせいか上手く舌が回らないようだ。
こういう時は、まずリラックスしてもらうことが大事なのだ。
いつもの2割減くらいのスローペースで、ゆっくり話しかける。
「ショーイチです。こちらこそありがとう。今日はよろしくね」
室内はそのまま土足でも大丈夫そうだったが、玄関スペースに彼女の脱いだ靴があったので、それに倣い、備え付けのスリッパに履き替えた。
そこは8畳ほどの広さで、半分近くをベッドが占めているタイプの部屋だった。
彼女をベッドに座らせ、筆者は物書き用の机の前に置かれていた小さな椅子に。
緊張でガチガチになっている女性に対し、いきなり物理的に距離を縮めるのは危険だからだ。
「よ、よかったらタバコ吸ってください」
椅子に座り向き合うと、K美チャンはそう切り出してきた。
筆者がヘビースモーカーなのを知っていて、わざわざ喫煙できる部屋をとってくれたようだ。
「喫煙OKの部屋にしてくれたんだね。ありがとう。K美チャンもタバコ吸うのかな?」
「いいえ、私は吸いません」
「旦那さんは吸うの?」
「い、いいえ」
「それじゃあ、この部屋でタバコは吸わないでおくよ。服とか髪に匂いがついたら大変だからね」
「えっ、いいんですか?」
「大丈夫だって。来る前に吸い貯めしてきたからさ」
本当は駅からホテルまで一直線で来たので、吸い貯めなんかしてない。しかし、人妻の女性読者を相手にするなら、これくらいの心配りは必要不可欠なのだ。