その後、ホテルを出て新宿駅に向かう。
「ショーイチさん」
「ん? どうかした?」
「て、手をつないでもいいですか?」
嗚呼、なんて可愛らしいお願いなんだ!
しかし、彼女は人妻だ。新宿という場所柄、どこで知り合いに見られるか分かったものではない。
「俺もつなぎたいけど…。もし知り合いに見られたら大変でしょ?」
「は、はい…」
またもやうつむいてしまうK子ちゃん。このまま歩くのは非常に危険だ。仕方なく道の端に移動し、止まって説得する。
「今度会うときは、大きなマスクとかサングラスを持ってくるといいよ」
「え?」
「そうしたら、堂々と手をつないで歩けるよ」
「わ、分かりました!」
涙で瞳をウルウルさせながらそう答えるK子ちゃん。もしかしたら、彼女は感受性が豊かすぎるのかもしれない。だが、それがどうした! セックスの相性の良さの前では、チンカスほどの些細なことだ。
駅の改札口まで彼女を見送った後、バスで帰宅すべく停留所に向かう筆者。
バスに乗り込んだところで、携帯にメールが届いた。
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ショーイチさん。今日は本当にありがとう。
こんなに幸せな気持ちにしてもらえて、感謝しかありません。
本当は明日にでもまたお会いしたいのですが、延長保育をそう何回もできないのです。
またタイミングを見て連絡させてもらいます。
ショーイチさん、大好き(ハート)
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確かに、何度も延長保育してたら、料金も加算されていくので旦那に不審がられてしまうのは間違いない。彼女なりに自制するしかないのだろう。
今回のデートは大成功だと言えるが、これから先も彼女が旦那とのエッチで恐怖を感じてしまうことに変わりはなさそうだ。
なんてもどかしいのだろう。
浮草稼業の筆者は収入が安定せず、月の収入が大卒新入社員の初任給以下になることも珍しくない。こんな状況では、自分ひとりで喰っていくのが精一杯で、とても女房子供を喰わしていくことはできない。K子ちゃんに「旦那と別れて俺と一緒になってくれ」なんて言う資格はこれっぽっちもないのだ。
だが筆者は、今の人生にひとかけらの後悔もない。もし生まれ変われるとしても、イケメンや金持ちになんてなりたくない。今の所沢ショーイチと寸分違わぬ人生を送りたいと思っている。
なんにせよ、またひとりセフレになってくれそうな女性と出会えたわけだ。K子ちゃんとの関係が今後どうなっていくのかは分からないが、今はただ、この幸せを噛みしめていたいと思った。
(文=所沢ショーイチ)