ふたりの距離はまだ10メートル以上は離れていたが、クミちゃんもほぼ同時に筆者に気付いた。目が合うと、ニコッと目尻を下げて微笑んでくれた。
いつもエッチの最中に感極まって相手にプロポーズしてしまいそうになる筆者。しかし、クミちゃんと再会したこの瞬間、スグにでもプロポーズしてしまいたくなった。
だが、クミちゃんは“医者の嫁”という高嶺の花である。筆者は、己が人生負け組の最下層であることを嫌というほど認識しているので、クチが裂けてもそんなことは言えない。
ヤらせてくれるだけで御の字だ!
そう言い聞かせながら歩を進め、彼女に語りかけた。
「久しぶりだね、クミちゃん」
「こんにちは、ショーイチさん。お久しぶりです」
「全然変わってないね。俺の記憶してたまんまで、すっごく綺麗だよ」
「も、もう、いきなりですね」
「ご、ゴメン。でも、本当に感動するレベルだから、言わずにはいられないよ」
「フフフ。でも、ショーイチさんも変わってませんね」
「あ、ありがとう」
「でも、髪がちょっと短くなってますね」
「あっ、わかる? 実は今日のために昨日美容室に行ってきたんだ」
「え? わざわざですか。なんだかすいません」
行ったのは美容室ではなく、ただの千円カットの床屋だ。ついつい見栄を張ってしまう筆者。
それにしても、髪の毛が短くなっていることにすぐ気付いてくれるとは。見た目だけじゃなく、性格まで文句のつけようがない彼女にますますホの字になってしまう。
「せっかくのお誘いメールを何度も断っちゃってゴメンね」
「いえ。いつもギリギリになってしまっていてすいません」
「いやいや謝らないで! 都合をつけられなかった俺が悪いんだからさ」
「そ、そんなぁ。ショーイチさんは悪くないですよ」
「でも、こうやってやっと会えて本当に嬉しいよ」
「はい! 私も今日を楽しみにしてました!」
「あ、ありがとう。ところで、今日はどのくらい一緒にいられそうなのかな?」
「ゴメンなさい。今日も3時間くらいしか時間が作れなくて…」
「そっかぁ。じゃあ、今日も時間いっぱいペロペロさせてね」
「や、やだ、恥ずかしいですよぉ」
「ゴメンね。でも、昨夜からそのことで頭がいっぱいなんだ」
「もう、相変わらずエッチですね」
「うん! それくらいしか取り柄がないからね」
こうして、挨拶もそこそこにホテル街に向かうことになった。
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