辺りを気にしながら小声で会話を続ける。
「俺、こんな感じだけど大丈夫かな?」
「え? 何がですか?」
「あ、ほら、もし嫌だったらゴメンなさいしてもらって大丈夫だからさ」
「全然大丈夫です。メールの印象通りで安心しました」
「そっかぁ、良かったぁ。じゃ、さっそくだけどホテルに行こうか?」
「はい」
こうして友達以上恋人未満といった微妙な距離を保ちながら道玄坂を登って行く二人。こちらも凄い人出で歩きにくいことこの上無し。新宿や池袋の人混みと違って、渋谷の人混みは目的意識の少ない歩行者が多いせいだろう。それゆえ周りの歩行者の流れが読めず、ただ歩いているだけで神経をすり減らしてしまうのだ。やはり筆者はこの街を好きになれそうにない。
そうこうしているうちにホテル街に到着。一刻も早く人いきれから逃れたかったので、一番手近の所にチェックインしたのである。
無事に部屋に入室することができた。ルミちゃんは決して無愛想ではないのだが、テンションは相変わらず低めである。ここまで来る道中にアレコレ探りを入れたのだが、どうしてもテンションが上がってくれないのだ。
ま、さもありなん。相手がイケメンだったりIT企業の社長だったりしたら放っておいてもテンションは上がりっぱなしだろうが、筆者トコショーは金も名誉もないただの性欲の塊にしか過ぎないのだから。
というワケで彼女のテンションを上げることを断念したトコショー。だが、ベッドの上で手を抜くなんて真似はしない。筆者の全身全霊を傾けた愛撫でリベンジしてやると誓うのであった。
必要最低限の会話だけで事が運び、別々にシャワーを浴びることに。先にルミちゃんがシャワーを浴び、交代で筆者もシャワーを浴びる。
筆者が部屋に戻ると、室内はほぼ真っ暗状態。ルミちゃんはベッドの上で布団から顔だけを出している状態だ。
チッ!
これじゃあエッチの楽しさが半減しちまうじゃないか! いつもならここで「俺、鳥目だから暗いと何も見えないんだ」だのと言って室内の暗さに抵抗するところだが、この日は諦めることにした。下手なことを言ってしまいルミちゃんのテンションがますます下がってしまうことを危惧したからである。
サクサクっとバスタオルで体を拭き終え、ベッドに潜り込もうとした。
「あ、あの、電気消して貰えますか?」
「え?」
「そこのお風呂場の電気を…」
チッ!
室内が真っ暗ゆえにせめて浴室の照明だけでも点けておこうと思っていたのだが、それすら消してくれと言ってきたのである。
まあ、ここまで来たら抵抗してもしょうがない。大人しく照明のスイッチをオフにしたトコショーなのであった。