【ネットナンパ】ドラクエの新モンスターと見紛うクリーチャー

 待ち合わせ場所は新宿アルタから徒歩10秒ほどの大型靴屋の前。筆者がよく利用する待ち合わせ場所である。約束の時間5分前に到着した筆者は、いつものように道行くブスやデブを目に焼き付けてイメージトレーニングを開始。吐き気と目眩を催すほどにクリーチャー(化け物)を脳裏に刻みまくっていると、一人のクリーチャーが筆者に向かって近づいてきた。

 
「お待たせしました。ショーイチさんですよね?」 
 
「あ、こ、こんばんは。はいショーイチです」 
 
「良かったぁ、違う人だったらどうしようかと思っちゃいました」

 
 残念ながらそのクリーチャーがマリコちゃんだった。体型はドラクエに出てくるモンスターのボストロールを二周りほど小さくしたって感じだ。こんな体型でポッチャリを自称するとは詐欺もいいところである。正直に「力士体型です」とか「ボストロールです」、と申告しやがれコンチクショーめ!

 顔はというと、料理研究家の園山真希絵を彷彿とさせるヨーダ顔。薄い黄色のワンピースを着ていたが、ボロ切れをまとって木の杖を持っていたほうがよっぽどお似合いである。

 顔がヨーダで身体はボストロールって、新しい敵モンスター? 少なくともドラクエ1から9までにはこんなモンスターは登場していなかったハズ。最新作のドラクエはオンラインゲームになってしまったので購入する予定はないが、こんな新モンスターが登場しててもおかしくないだろう。

 まったく罰ゲームもいいところである。なんの罪悪感も感じずに「ごめんなさい」と宣言しようとした矢先、先手を取られてしまった。

「じゃ、どこに行きますか?」と笑顔を浮かべながら筆者の腕に手を添えてきたのである。

 ぐぬぬぬぬ。

 いきなり距離を詰めボディタッチしてくるとはこの女、できる! いまこの体勢で「ごめんなさい」などと言おうものなら、どんな技を仕掛けられるかわかったものではない。重量級のマリコちゃんと中量級の筆者では階級が違い過ぎる。ここは下手に逆らっては危険だ。

「じゃ、じゃあ約束通りとりあえずお茶でもしに行こうか」と応じるほかに術はなかった。

 こうして喫茶店に向かうことになった。ラブホテル街の方向に足を向けるのは危険な気がしたので、いつもとは反対の方向に歩きだす筆者。相手に悟られないよう早歩きしてマリコちゃんの手を振りほどく。む? コレはさすがに見え見えか? 相手の機嫌を損ねたら何をされるかわからない。「じゃあ、こっちのほうだからついてきて」と作り笑顔でフォローする筆者であった。

 大通りから一本外れた通りにある喫茶店に到着。店内は空いていたので、一番奥の席を選択した。こんなクリーチャーと同席している所を人目にさらしたくないという心理ゆえだ。

 注文した珈琲が届くと同時に、マリコちゃんの怒涛のおしゃべりが始まった。

 
「ね、ショーイチさん。俳優のTって知ってる」 
 
「う、うん。ちょっと強面の性格俳優だよね」 
 
「そうそう。じつはね、私Tの奥さんと同じ職場で働いてるの」 
 
「へ、へぇ、そうなんだ」 
 
「うん。奥さんすっごく綺麗なんだけど旦那さんの稼ぎだけじゃ生活できないみたいで……」

 
 俳優Tはある映画で優秀助演男優賞をとったこともあるが、渋めのバイプレーヤーといったポジションなので正直知名度はイマイチだろう。数年程前、筆者はグルメ雑誌で彼の行きつけの店を記事で紹介したことがあるので、辛うじて顔と名前が一致した程度である。

 
「で、彼女が言うには今住んでるところが……」 
 
「彼女すごく仕事ができるから、私よりも断然稼いでいそう」 
 
「彼女はレースの刺繍が趣味みたいで、この間も手作りのハンカチもらっちゃった」 
 
「旦那さんが稼いだお金はほとんど彼の趣味で消えちゃうみたい」 
 
「彼女も結構な年だから、もう子供を作る気はないんじゃないかな」 
 
「この間、彼女と一緒にTの舞台を見てきたんだ」

 
 延々と俳優Tと奥さんの話をするマリコちゃん。自分の話はほとんどせずに、飽きもせずにずっとしゃべりっぱなしだ。筆者もなまじTに関しての予備知識があったため、ついついクリティカルなタイミングで話題に応じてしまう。それを受け、ますますTと奥さんの話に熱中するマリコちゃん。

 まぁ、いいか。モンスターの生態よりはよっぽど健全な話題である。それにしてもよくもこれだけ他人の話で盛り上がれるものだ。俳優Tの奥さんが元女優とか元アイドルとかならまだわかるような気もするが、奥さんはただの一般人である。

 こんな不毛な会話が一時間近くも続いた。そして筆者が三杯目の珈琲をオーダーしたころから風向きが変わってきた。

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