スギちゃん事故も…体を張ってもつまらないテレビの罪

※イメージ画像:『スギちゃん「ワイルドだろ~」』アニプレックス

 スギちゃん事故のニュースが世間を賑わせている。テレビ朝日系のバラエティ番組収録中に起こったという今回の事故。プールへの高飛び込みが原因だということから、『クイズプレゼンバラエティー Qさま!!』の特番人気企画「10M高飛び込み」の収録で、スギちゃんは重傷を負ったのではないかと言われている。診断の結果は「第12胸椎破裂骨折」。4~6週間入院し、リハビリを経て、復帰は3カ月後になる見通しだという。事故後、本人はブログを更新。「元気だぜぇ」「身体は元気だけど、腰が動かない。ただそれだけだから、すぐに治して復活するぜぇ」と芸人らしく気丈に振る舞うも、2012年春、一発屋として華々しく世に出て、ようやく夏を乗り切り、これから生き残りをかけた正念場というところでの長期離脱は、怪我以上に痛いに違いない。

 テレビ朝日系のバラエティ番組で起こったタレントの事故ということでかはわからないが、スギちゃんの事故をフジテレビは大きく報道。2日に放送された『Mr.サンデー』(フジテレビ系)では、詳しいVTR検証なども交え、およそ20分にも渡り「飛び込みの危険性」を特集。夏の終わる時期にもかかわらず、プールや水場での飛び込みがいかに危険かと警鐘を鳴らす内容には、視聴率争いで負けているテレビ朝日に対し、まるで鬼の首でも取ったかのような態度にも思える。

 フジテレビの報道に底意があるかはともかく、やはり10Mの高飛び込みというのが危険なものには違いない。『Mr.サンデー』によれば、10Mの飛び込みでは着水時に1トンから2トンの衝撃があるという。その衝撃が背中に直撃し、スギちゃんは背骨を圧迫されて破裂骨折させてしまったというわけだ。さらに、同番組は背骨の怪我による後遺症に言及。最悪の場合という前置きがあるとはいえ、半身不随などということも考えられるという。ワイルドなスギちゃんの完全復帰を願うばかりだ。

 ここ数年、芸人たちの大怪我が後を絶たない。2011年5月にはライセンスの藤原一裕が、『ヤンヤンJUNP』(テレビ東京系)の収録中に左膝を負傷し「左膝前十字靱帯損傷」。リハビリを含め、完全復帰まで1年を要した。また、今年2月には『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)の収録中に、ずんのやすが腰椎骨折の大怪我。復帰まで半年かかっている。数年前からさかのぼれば、『オールスター感謝祭』(TBS系)で次長課長の河本準一が右肋骨骨折。『はねるのトびら』(フジテレビ系)ではドランクドラゴンの塚地武雅が左足脛骨骨折。『オレたち!クイズMAN』(TBS系)でオードリーの春日俊彰は左足2カ所を骨折。『オレワンスペシャル』(フジテレビ系)にいたっては、我が家の杉山裕之が左肩関節脱臼骨折、ハイキングウォーキングの松田洋昌が肋骨、陣内智則が左肩骨折するなど、大量の怪我人を出し番組そのものがお蔵入りとなった。

 確かにハプニング的に起こる笑いは、予想外のため面白い。『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ系)でスキー場を自転車で滑走して一回転してしまう錦野旦や『スターどっきり(秘)報告』(フジテレビ系)の爆破に巻き込まれそうな大仁田厚など、事故ギリギリのシーンは、バラエティ名場面として人々の記憶に強く残っていることだろう。読者にもそれぞれ思い出の衝撃シーンというのがあると思う。

 ただ、そんな衝撃シーンの数々を彩ってきたタレントたちは、誰よりも本気だったからこそ、その衝撃シーンを生み出すことができた。そしてそれは同時に関係スタッフたちも同じだったに違いない。本気だからこそ生まれる突発的な衝撃場面。しかし、芸人が飽和し、代替タレントが吐いて捨てるほどいる今のバラエティでは、ハプニング期待という前提で、「とりあえず」感覚の番組作りが横行している。そんな感覚でたどり着く笑いは、たいていの場合、“そこそこ”程度といわざるを得ない。こなれた手つきで笑いと衝撃を同時に生もうとしても土台無理な話。その単純消費作業に付き合わされる芸人は、なんとも気の毒だ。ただ、そうするしかないのが芸人という職業の性でもある。どんな無理難題でも怪我をしないで乗り切れる強靭な体が求められる芸人には、アスリートとしての素質も必要だ。テレビ局サイドには、そうした芸人の特性を見抜く責任がある。

(文=峯尾/http://mineoneo.exblog.jp/
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