浜田の参加で「MHK」の松本コントに期待するもの

 11月5日からスタートする松本人志の月1コント番組『松本人志のコント MHK』(NHK)の初回放送時に相方の浜田雅功がゲスト出演することが発表された。2001年の『ごっつええ感じSP』(フジテレビ系)でコントを披露して以来となるダウンタウンのコント共演に、ネットでは「楽しみw」「早く見たい」といった意見が寄せられ、早くも話題を集めている。

 デイリースポーツによると、今回の共演は「松本のラブコールに浜田が応える形で実現した」という。そしてその気になるコント内容は、プロデューサー役の松本が出演俳優に扮した浜田にハチャメチャな決めぜりふを繰り返し要求するというものらしい。往年の名コント「おかんとマー君」を彷彿とさせる内容には、多くのファンが胸を高鳴らせていることだろう。

 しかしなぜ松本はここにきてコント番組をやろうと決心したのだろうか。今春公開された映画『さや侍』(松竹)のティーチインで、彼は「テレビと映画の両立はしんどい」と語り、「そろそろ笑う側に回りたい」と発言していた。これを聞いた記者は、もう松本のコントをテレビで見ることはないのかもしれないと思った。そして、彼の作りこんだ笑いは今後映画でしか見ることは出来ないのだろうと。そんな中、当時から噂されていたMHKの放送も、昨年同様1回きりのものだと思っていた。しかしそれが来春までレギュラー放送されるということを聞き、驚くと共に彼の尽きぬ創作意欲を歓迎する。

 1990年代、『ダウンタウンDX』(日本テレビ系)のゲストに伊東四朗を迎えた松本人志は、「極端な話をしたら漫才を1本作るのに1年かかる。しかし、同じ漫才を1年間やり続けることは出来ない」と語り、伊東と共に「笑いの難しさ」を強調した。当時は『ごっつええ感じ』が全盛だったころである。そのころから比べ、今の笑いの社会的価値は、格段の上昇をしたといえるだろう。しかし、今のゴールデンタイムのバラエティー番組を見渡して見ると、クイズやゲーム、料理などを紹介するVTRものの番組がほとんど。一時のネタ番組ブームを経て、今ではゴールデンタイムのテレビで純粋に芸人のネタを見られるのは季節ごとの特番だけとなった。

 そんなクイズ番組や町歩き食べ物紹介番組は、いわば視聴者と出演芸能人が一緒になって問題やVTRを楽しむ番組といえる。つまり、今人気の『ナニコレ珍百景』(テレビ朝日系)や『潜入!リアルスコープ』(フジテレビ系)、『お試しかっ!』(テレビ朝日系)という番組の成功の秘密は、視聴者を番組の一部として取り込むことができたということといえる。視聴者を番組構成の一部に据えたバラエティーが面白くないとは言わないが、ただそればかりではつまらないのも事実だろう。定期的に特番で放送される大型ネタ番組が耐えることはないのはそれを物語っている。やはり、どんなに笑えなくても「どうだ!これが面白いだろ!」という一方的な熱意のこもった笑いは見ていて気持ちいい。

 昨年放送されたMHKには、松本によるそのような気概があったように思える。確かに無条件で笑えるような爆発的な面白さがあったかどうかには疑問が残るが、それでも、「逆に」を連発する卒業式のコントなど、彼なりの価値観の一方的な提示は伺えた。前述したように、現在放送されているバラエティー番組の多くが、視聴者とタレントを同列に扱っているものばかりだ。そんな中で、一方的に笑いを提示する松本のコント番組がレギュラー放送されることは、新しいテレビの時代を感じさせる。

 今年の6月からスタートしたコント主体のバラエティー番組『サタデーナイトライブJPN』(フジテレビ系)もまた、MHKと同じように月1での放送となっている。お笑いという文化が成熟した現代では、納得の出来るレベルでコントを放送し続けるには、月1というのが限界なのかもしれない。そして、11月から放送する松本のコント番組が成功すれば、月1ネタ番組というのがバラエティー番組の一角を担うことになるかもしれない。今の芸能界には、それをやり遂げるだけの実力ある芸人が数多いのだから。松本がコント番組を始めるのは、そんな多くの若手芸人のために、テレビでコントを披露する場を与えたいのかもしれない。

(文=峯尾/http://mineoneo.exblog.jp/
著書『松本人志は夏目漱石である!』(宝島社新書)

『THE VERY BEST OF ごっつええ感じ 1』

 
色あせない笑い

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