◆さすらいの傍聴人が見た【女のY字路】 第39回

70歳過ぎて少女へのワイセツ行為に目覚めた男に妻は

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※イメージ画像 photo by Horia Varlan from flickr

 老人でも、女子高生への痴漢や、同世代の老女へのわいせつ行為などで逮捕されることは、さほど珍しくはない。古いデータだが、警視庁によれば、痴漢等のわいせつ犯罪で検挙された70歳以上は、1998年の36人から2006年には129人に増えているという。また平成22年版の犯罪白書には、老人の犯罪率が増加していることが明記されており、軽微な犯罪のみならず、殺人などの重大事件のほか、性犯罪でも検挙人員と高齢者比が増加しているとある。

 こちらの被告人も73歳でありながら、10歳と7歳の女の子にわいせつ行為をして逮捕された。公園にいた少女に近づき「髪の毛キレイだね」などと言いながら髪をなで、さらに「けっこう胸でかいね」などと言って胸をもみ始めたという容疑で逮捕起訴された。しかも、同種の前科があり、執行猶予中だった。前回の裁判で”1人でうろつかない”という約束をしていたのに、それも破って事件を起こしたようだ。

「おじさんが気持ち悪くて無視してた。自分のズボンを引っ張って下げようとしました。変なおじさんからいろんなことされたので許せません」

 調書では少女もこのように、つたない言葉で被害感情を述べている。

 ところで、裁判所では時折「空気感染のおそれのある病気(例えば風邪など)」にかかっている被告人の裁判の場合、法廷の傍聴人にマスクが配られる。この裁判でもそうだった。通称”カラスマスク”と呼ばれる、くちばしの形に似たマスクだ。被告人をはじめ、弁護人も検察官も、そして裁判官までも、法廷の全員がマスクを着用していたのだが、被告人だけ、マスクの着け方が甘く、かなり口元がはみ出していた。感染源の被告人が口元をガードしきれていないありさまである……。

 そんな、ちょっと不安な状況で行われた裁判。被告人はヨボヨボのくたびれた老人で、よろよろしながら証言台の前に向かう。見た目、どこからどう見ても、気の弱そうなおじいちゃんなのに、本当に人は見かけによらない。

 少女だけでなく親も「犯人に死ぬまで刑務所から出てくるなと言いたい」といった様子で、並々ならぬ処罰感情の高さがうかがえる。しかし、前科も同種ということは、これまでわいせつ行為を働きまくる人生を送っていたのかと思いきや、そうではなかった。

弁護人「あなた、60歳まで会社勤めしてたんですよね。それまで事件起こしたことは一度もありませんね」
被告人「はい、70歳までもないです」
弁護人「前に裁判受けたのは70歳……なぜ、70代になってから、こんな破廉恥な事件を起こすようになったんですか? もともと、そういう性格じゃないでしょ?」
被告人「……入院して、車いす……散歩で公園に行くようになって……」

 何が犯罪のきっかけになるか分からないものである。これまでそういう嗜好はあったもののタイミングがなかっただけなのかもしれない。

 対する検察官からは、

検察官「どうして声かけたの?」
被告人「……なんとなく声かけました……」
検察官「女の子の陰部や胸を触りたい、そういう気持ち?」
被告人「ハイ……」

 また刑務所に入るのが怖かったけれど「そのときは頭になかった」という。かなり夢中だったようだ。

検察官「なぜ今回も、前回と同じ公園で事件起こしたの? 余計にまずいと考えなかった?」
被告人「考えました……」
検察官「じゃあどうして?」
被告人「……」
検察官「ほかにも事件、起こしてない?」
被告人「いや!!! ないです!!!」

 このときだけ必死になり抵抗する様子も若干怪しい。

 ところで、被告人には妻がいて、前回の裁判では証人として出廷し、今後の監督を約束してくれたというが、今回は出廷どころか、拘置所への面会も1度しか来てくれていないという。これについて触れると被告人は突然泣きだした。

検察官「面会のとき、何て言われた?」
被告人「………『死になさいよ』って言われました(嗚咽)」
検察官「……長年連れ添ってきた妻に、そういうこと言わせちゃったんだね」
被告人「2人の子どもは一度も来なかった……妻から伝言で『もうウチに来ないでくれ』と息子が言ってると聞きました……私は、孫に会いたいんです!」

 このとき被告人のマスクは、ほとんど取れかかっていた……。

 前科のときの被害弁償に老後の金を使い切ってしまったらしく、今回の被害児童に弁償する金もなければ、夫婦で楽しく老後を過ごすための資金もないとのこと。被害少女も気の毒すぎるが、何より妻が浮かばれない。

 家族が誰一人傍聴席に居ないまま、被告人には懲役3年が宣告されていた。ちなみに、閉廷後に裁判所に問い合わせたところ、被告人の病気は結核だった。傍聴には、たまに危険も付いてくる。

 
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