
著:松本一起/長崎出版
ストーカー行為等の規制等に関する法律、略してストーカー規制法。この法律違反で裁かれる被告人たちには、いくらか共通点がある。それはプライドが高いこと、そして、勘違いがハンパないことだ。
保釈されているC也(昭和40年生まれ)は大きめのベージュのジャケットにグレーのズボン、色黒でロン毛、と妙にバブルの残りかすを感じさせる出で立ち。あまり刑事裁判とは縁のなさそうな感じではある。
ロッククライミングを趣味としており、そのつながりで被害者女性Aさんと出会った。Aさんの夫は海外赴任中で、仲が良くないとも聞かされ、すっかりその気に。当初はお互い好意を抱き、肉体関係もあったという(裸の写メも撮っていた)。ところが、密会中に夫が帰宅し、2人の関係がバレてしまった。C也はAさんが夫を捨て、自分のところに来てくれると信じていたのだが、当然ながらAさんはC也と別れることを決めた。
だが、C也は応じなかった。
なかなか別れられないでいた矢先、2人でいたところAさんのケータイに夫からの電話。ここでC也はカッとなり、激しく夫を罵倒。Aさんもすっかり恐怖を感じてしまったという。その後、夫から「今後は彼女に会わせない」というメールが。怒りが最高潮に達したC也は、夫やAさんをメールで罵倒しはじめ、さらにはつきまとい行為まで行い、結果、逮捕された。
「地獄に堕ちろ」「犯罪者野郎」「オレはやると言ったら徹底的にやる。刺し違えてでもやるよ」というメールを何度も送っていたというから、Aさんの恋も冷めるはずだ。だが、法廷でのC也はまだそれが分かっていなかった。
「彼女は恐怖感を感じたと言ってますが、そのような事実はないです! 私は彼女に貞操観念がないことを注意しただけです!」
「ボクたちの付き合いは、非常に深くて親密でした! 彼女はまだ、私のことを愛してると思ってます!」
何も言えない。警察につきまとい行為を禁止され、刑事裁判にまでなっているこの段階で、明らかに嫌われてることにまだ気づいてないのは、この法廷で彼だけだろう。
裁判官も呆れ気味に、
「あなた大学生じゃないんだからさぁ~歳おいくつ!? 弁護士からも書類来たんですよね。それで気づかないなんて、尋常じゃないよ! 普通、そこで気づくよ!
あなたがね、好きか嫌いかなんて、関係ないの! 学生に説教してる訳じゃないんだからさぁ、迷惑かけないのは大人の付き合いの最低限のルールでしょ!? そこで好きだも嫌いだもない訳よ!」
当然ながらC也には有罪判決が下された。
また、昨年末の別の裁判でも、28歳の大学8年生がバイト先で知り合った女性にストーカー行為を働いたというものがあったが、こちらも勘違い発言が多かった。最後には、
「まあ、本来、こういうことするつもりはなかったし、自分を見失ってた。逮捕されてからは彼女に親しみも感じないし、魅力も感じない」
と言い放つ始末。謝罪の言葉はどこ行った、と聞きたくなるほど、彼らには『あの子に悪いことしたな~』という気持ちが希薄だ。それどころか、オレが嫌われるはずはない、となぜか思っているフシがある。悪いことをしたと思ってないのか、または謝るのが恥ずかしいのか。いずれにせよ自分の好意を受け止めてもらえるのが当然だと思っているから、拒絶されるとキレるのだろう。
ストーカー規制法は、1999年に埼玉県桶川市で発生した桶川ストーカー殺人事件をきっかけに施行された。最寄りの警察に相談をすると、相手方に警告がいく。警告に従わなければ、(東京都の場合は)都の公安委員会から禁止命令が出る。それにも従わなければ、刑事裁判を受け、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される。
法廷にやってくるストーカー規制法違反の被告人は、それら再三の警告や禁止命令も無視した強者たちだ。ただ、裁判を見ている限り、勘違いの度合いがすごすぎて、その後が心配になる。被害者は、加害者に逆恨みされるんじゃないかという不安もつきまとうだろう。罰を与えたらそれで終わり、という現状のシステムでは若干の心配が残る。カウンセリング、保護観察等、加害者へのフォローも必要だろう。
(文=高橋ユキ)
◆さすらいの傍聴人が見た【女のY字路】 バックナンバー
【第1回】ホームレスを手なずけ、大家を手にかけたA子のプライドとは
【第2回】動機の見えない放火殺人
【第3回】「呪い殺すぞ」「しっしっしー」二代目騒音オバさん 隣人との土地取引トラブル
【第4回】秋葉原17人殺傷事件:被告人が涙した、女性証人の心の叫び
【第5回】SMプレイの果てに彼氏が死んでしまった元レースクィーン
【第6回】男の奴隷となり、家族を手にかけた女の半生
【第7回】ミイラとりがミイラに!? 元警部補がトリコになったシャブと女
【第8回】SM、女装、シャブに暴力……元NHK集金人の奔放すぎるハーレム生活
【第9回】消火器とマヨネーズを郵便ポストに噴射…… SMの女王様の一途な恋
【第10回】平塚5遺体事件 生きている人間より死体の多い部屋
【第11回】遺体をノコギリで切断しコンクリート詰めに! 40代ブリッコ中国女の迷走ぶり
【第12回】「ブサイクな嫁とバカな子と一緒にいればいいじゃん」に激昂! 別れさせ屋事件
【第13回】11の偽名を持ち数年間逃亡した女 レズ殺人事件
【第14回】「合鍵を作って部屋に入ったら、強姦したくなった……」身勝手な殺人
【第15回】セレブ妻バラバラ殺人事件
【第16回】旧皇族・有栖川宮(ありすがわのみや)詐欺事件
【第17回】ジャニオタ女の一途過ぎる一方的愛情
【第18回】芸能界に蔓延るMDMAの実態を垣間見る
【第19回】「あなたの子供なのに、どうして!」嫌悪感の極致 不同意堕胎事件
【第20回】厚生労働省の郵便不正事件だけじゃない! 元検事によるトンデモ事件
【第21回】出会い系にご用心! カノジョの『告白』にキレた男が取った行動とは?
【第22回】川崎通り魔事件・被害女性が語る犯行時の恐怖
【第23回】「客として会うのは嫌。他の客と同じなのもイヤ」デリヘル嬢殺害・死体遺棄事件
【第24回】仕事も信頼も失う恐怖 元オリンピック選手による覚せい剤事件
【第25回】憧れていた日本への落胆が殺害の動機に!? 中国美女による殺人未遂事件
【第26回】「ネコに話したことが世界に筒抜けだから、組織的な犯罪」精神鑑定の基準は?
【第27回】「総菜3点」万引きした女医 事実はAVよりも奇なり
【第28回】「パンツの中に手を入れた認識はない」電車で痴漢したイケメン
【第29回】「やってない」という証明は本当に難しい 明日は我が身、スリ未遂罪裁判
【第30回】“見た目が派手だからすぐヤレるだろう”イケメン双子による集団準強姦未遂事件
【第31回】不倫相手の出張中に他の男とセックス、一転レイプされた! 虚偽告訴罪で逮捕
【第32回】AV業界の深い闇 「バッキービジュアルプランニング」裁判
<特別編>
【第1回】年金だけじゃない老人問題! 高齢者による無銭飲食犯罪の増加
【第2回】再犯率48.9%! 覚せい剤取締法違反者の共通点と司法の問題
【第3回】強姦事件の8割以上は屋内で発生!! 被害を未然に防ぐヒミツとは?
【第4回】知っておいて損はない 判例の少ないネットによる名誉毀損について
【第5回】犯罪者に魅かれるオンナたちの心理
【第6回】通り魔殺人事件に見る「漠然とした不安」の根源