
数年前のこと、某フェスの喫煙所で、明らかにタバコじゃないものを吸ってる男がいた。気分が良くなっちゃってるのも手伝ってか、周りの人たちに「吸いますか~?」なんて、ワルっぷりアピールをしている。かっこ悪くてこっちが赤面しそう……。
フロアに移動すれば、明らかに酒じゃないだろう、と疑うくらい、すさまじいテンションで踊りまくる男の子もいて、なんというか、違法薬物ってもうかなりカジュアルなモノなんだな、と思い知らされた。
そんな気軽な存在に成り下がってることもあってか、薬物犯罪、なかでも覚せい剤取締法違反の再犯率はものすごく高い。チャンピオンの窃盗罪と僅差で堂々の2位である(平成19年犯罪白書より)。
しかも再犯までの期間が短いのも特徴だ。実に48.9%、約半数が2年以内に再犯を犯しているという。見つかるまでが2年以内というのだから、裁判が終わって再び使用するまでの期間はもっと短いと思われる。
覚せい剤取締法違反は初犯かつ単体で裁かれると、ほとんどが執行猶予となる。相場は懲役1年6カ月、執行猶予2~3年ぐらいだろうか。執行猶予期間中に別の罪で逮捕起訴され、懲役刑を受けると、猶予されていた懲役刑が加算される。この場合だと、1年6カ月、上乗せされるのだ。
犯罪白書によれば約半数は2年以内に再犯を犯しているのだから、執行猶予が取り消され、初犯のときの懲役刑が上乗せされているのだろうと推測できる。
東京地方裁判所でも開廷表(その日の時間割のようなモノ)を見れば、どんな季節であろうと覚せい剤取締法違反の裁判は行われている。しかも法廷に入ってみると、本当にかなりの確率で、再犯者だったりするから驚く。ところでこの覚せい剤裁判(再犯)の被告人というのは、見たところ、雰囲気が共通していることが多い。実年齢よりもかなり老けて見え、また、シャベリもトロい。「薬物とは今後縁を切ってぇ~」と、もはやそのセリフ何度目だ? と思われるような熱意のない供述を聞いて切ない気分になることもしばしばだ。
ご存知の通り、覚せい剤は常習性がハンパない。裁判で被告人たちが語ってきた話によれば、頭がスーッとするし、寝なくてもすむようになる。ただその後、それまでのハイテンションのツケが一気にきて、そのためまた覚せい剤を使う……というサイクルになる。実際には使用によって一時的に中枢神経が麻痺し、痛みや疲れが取れると錯覚するだけのことである。副作用はかなり深刻で、使い続ける事により慢性の幻覚妄想状態、意欲低下、引きこもりなど、統合失調症の陰性症状のような症状を呈することもあれば、静脈注射により肝炎などのリスクが高まる。
芸能界でも田代まさし、清水健太郎を筆頭に覚せい剤で逮捕される有名人は後を絶たない。社会的信用を失うと分かっていても手を出してしまうのだから、その中毒性はすごい。
失うものは社会的信用だけではない。
2008年4月、東京都江戸川区の女性(19)が行方不明となった。直前に知人女性に「亀戸で男の人に会う」と言い残しており、その後「覚せい剤を打たれた、助けて、殺される」と友人や家族に連絡が入っていた。この亀戸で落ち合い、一緒に覚せい剤を使ったとされるのが塩野直樹(逮捕当時26)だ。ネットの掲示板で「一緒に冷たいのを決めない?」と女性を誘い出した。この事件、ナゾが多いが塩野は「峠で休憩していたら急に暴れだして車を出て行き、捜したが見つからなかった」と述べている。
結局、女性の行方不明事件では罪に問えず、塩野は覚せい剤取締法違反違反のみで裁かれ、執行猶予判決を受けた。女性の行方は今も分からない。
また07年には、町田市の団地で女子中学生が重体で見つかる事件が発生。尿からは薬物反応が出ており、団地に住む男(39)は「自分が少女に薬物を打った」と供述。のち少女は死亡した。
リアルに人間でなくなってしまうということを、カジュアル薬物利用者はもっと肝に銘じた方がいい。
と使用者側についていろいろ言ってみたが、司法にも問題はあるだろう。先にも書いた通り、なぜか覚せい剤取締法違反の初犯はだいたい執行猶予。これはおそらく薬物使用者には常識となっているはずで、一度捕まっても大丈夫、というアタマがあるのだ。もう、一発目から実刑、とすれば少しは抑止力になるとは思うのだが……。
(文=高橋ユキ)
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