
さいたま地裁での傍聴のため、浦和に行ったときのことだ。午後からの審理にそなえて、腹ごしらえをしようと駅前のファミレスに立ち寄った。ランチタイムのため店は大混雑。席は若干空いているが、店員の数が足りないようだ。入り口前に何人かお客さんが並び、店員に案内されるのを待っていた。
その後ろに並んでいると、店の奥から食事が終わったと思われるおじいさんが出てきて、会計のためレジ前へ。その後ろから、連れのような歳の近いおばあさんがノソノソと歩いてきて、筆者にぶつかり、店を出て行った。
老夫婦が食事を済ませ、おじいさんが払うので先におばあさんが店を出たのかな? と思いきや、違った。2人は連れではなかったのだ。
やっと店員に案内されテーブルにつくと、斜め前には、空になった食器と伝票が載っているテーブルが。トイレにでも行ってるのかと思いきや、いっこうにその席の主が戻って来る気配はない。店員もそわそわし始めた。
筆者 「もしかして、そこの席に白いダウンを着たおばあさん、座ってました?」
店員 「そうなんですよ」
筆者 「さっき店を出て行きましたよ。別の客の連れだと思ってたんですが」
店員 「あら! やられちゃったかしら……」
結局、その席に座っていたおばあさんが戻って来ることはなかった。
他の客が出るときに、連れを装って出るという手口。手慣れた感がある。このように、うまいことやって検挙を免れている高齢犯罪者を目の当たりにした驚きはデカかった。
平成22年度版犯罪白書によれば、65歳未満の年齢層においては、一般刑法犯検挙人員は、最近になり減少傾向を示すようになったものの、65歳以上の高齢者の検挙人員は、上昇傾向が続いている。グラフを見れば、特にここ10年の増加が顕著だ。
もともとの人口比率の影響もあるのだろうが、高齢者の一般刑法犯検挙人員の人口比は他の年齢層より相対的に低い。が、平成20年における高齢者の検挙人員人口比は、平成10年の30~49歳、50~65歳の検挙人員人口比よりも上回っており、平成元年と比較した場合は、約3.7倍に上昇している。特に近年の高齢犯罪者の増加の勢いは、高齢者人口の増加をはるかに上回っているという。
確かに裁判所では、無銭飲食(無銭飲食は詐欺罪に該当する)や窃盗の被告人に高齢者が目につく。先日もふらっと法廷に入ってみたら、被告人は65歳、住所不定&無職のおじいさん。出所して一カ月経たないうちに、そば屋で天丼、瓶ビールなどをタダ食いして逮捕された。ちなみに出所時に手にしていた報奨金の3万円は、競輪やカプセルホテル、タクシーなどであっという間になくなり、事件当時の所持金は30円だった。
動機については「おなか空いてたんで……歩いてたから」とシンプル。
犯罪の抑止力となるはずの懲役さえも「刑務所は8回も入ってるんで、辛いと思わないね~」と余裕。実際、ホームレスにとっては、三度の食事と屋根のある刑務所が魅力的に映るようだ。
前年の平成21年度版犯罪白書では、高齢者による犯罪の実態とその処遇について特集が組まれている。その中で高齢者窃盗事犯者の動機・原因について調査がなされており、そのトップ3は、男性で「生活困窮」「対象物所有の目的」「空腹」。食べるのに困っての犯行が主であるということだ。ところが女性では「対象物所有の目的」「お金を使うのがもったいない」「生活困窮」という順。節約のために金を払わずにモノを手に入れたい、という動機が主となる。とはいえ、そもそも検挙人員の男女比は2:1と男性の方が断然多いため、やはり主な動機は生活困窮であると言える。
そろそろ団塊世代が退職する時期がやってくる。65歳以上の高齢者の増加に伴い「現在よりもはるかに多数の高齢新受刑者が生まれるおそれがある」と犯罪白書でも危惧されている。介護と年金ばかりが、老人問題ではないのだ。
(文=高橋ユキ)
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