◆さすらいの傍聴人が見た【女のY字路】第23回

「客として会うのは嫌。他の客と同じなのもイヤ」デリヘル嬢殺害・死体遺棄事件

 10月19日から、東京地裁でいわゆる「耳かき殺人」の公判がスタートする。昨年の8月3日、耳かき店の従業員だった江尻美保さん(21=当時)とその祖母、鈴木芳江さん(78=同)が、客であった林貢二(42)に刺し殺されたという事件だ。林は江尻さんの生前、たびたび店を訪れ指名を重ねており、交際を求めて断られ、果ては来店禁止にまでなっていたという。相手にされず殺意を抱いたというのが逮捕当時に報道されていた動機だが、公判では何を語るのか。

 店の女性に本気になってしまった……と言えば、2年前にもこんな裁判があった。

 被告人は代古勝之(42)。偶然にも先の林と同年だ。スーツに長身。見た目は普通の冴えない男。代古は2008年の3月、いつも指名していたデリヘル嬢・Kさん(24=当時)を殺害し、遺体を置き去りにしたまま逃走。偽名でホテルを転々とし、金が尽きたところで、交番に出頭し逮捕された。

「離婚してしばらくしてて、人肌恋しくて……」05年にデリヘルを利用したとき、来てもらったのがKさん。これが出会いとなった。代古はKさんを気に入り、以後、頻繁に指名するようになる。

「とても明るく、話し上手な子でした。多いときでは週1回来てもらってた」

 福祉関係の仕事をして貯めていた貯金もあっという間になくなり、アルバイトまで始めながら、指名し続けたという。店につぎ込んだ金額は137万円。そしてこの辺から勘違いが始まった。

「お客とデリバリー、そういう関係、それ以上の深い関係になりたいと考えるようになりました。客として会うのは嫌。他の客と同じなのが嫌だったので、付き合いたいと伝えました」

 このときだけでなく、代古はたびたびKさんに付き合いを申し込んでいるが、軽くかわされ、日々は過ぎた。ただ、他の客よりは親密だったのか、昼間もたまに会ったりしてはいたようだ。

 そして事件直前。「風呂が壊れたから入りたい」とやってきたKさんに代古は、「彼氏いるの?」と切り出す。何度も付き合いを申し込んでスルーされているんだから聞かなきゃいいのに、と思うが、当然ながらKさんの返事は「いる」。

「私としてはホントの気持ち知りたかったので、問い詰めました」が、曖昧な態度を取られ、ついにもう会わない方がいい、という話になってしまった。そして「他の男に触られるのが嫌だったら風俗店をやめる。でも昼の仕事に就くために40万円援助してほしい」と切り出された。

 Kさんはこれまでも代古から4度、計200万円ほど、金を借りていた。

「結構仲良くしてきたのに、金だけの存在だったのかと……。そのうち彼女は帰ると言い出しました。もう、二度と会えなくなる。離したくなかったし、他の男に触れられたくなかった……」

 と、ロープをKさんの首に巻き付け、殺害した。

検察官「つなぎ止めたいから、金を出したんですか?」
代古「助けたいから金を貸しました」
検察官「Kさん以外の風俗嬢を指名しているときもありますね。なぜ?」
代古「ケンカしてるときで……」
検察官「要求を満たしてくれれば、Kさん以外でもよかったんですか?」
代古「違います」

 本人はかなり本気だったらしい。しかしお店で働く女性との関係で「金だけの存在だったのか」と嘆くナンセンスぶり。それを分かってないのは、法廷の中で代古だけだっただろう。サービスを提供してもらう対価として金を支払っている、というそもそものシステムをすっかり忘れてるようだ。そして「他の人に触られたくない」と付き合いを申し込み、金まで貸してしまうなど、さらなる勘違いをしてしまったのだろう。

 サービス業には疑似恋愛がつきものだが、それを割り切って楽しめないと、とんでもないことになる。その辺を割り切れないところは耳かきの林と共通している。その歳になれば、相手が本気か、営業で言ってるのか、区別もつきそうだけど……。経験が少なすぎるのか?

 判決は懲役13年。林には、もっと重い刑が下されるだろう。
(文=高橋ユキ)

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