◆さすらいの傍聴人が見た【女のY字路】第22回

【裁判傍聴】川崎通り魔事件・被害女性が語る犯行時の恐怖

51pRLAnu2uL._SS500_.jpg*イメージ画像:『通り魔』 著:エド・マクベイン

 神戸市北区の路上で高校二年生の男子が何者かに刺し殺される事件が発生した。10月8日現在、まだ犯人は捕まっていない。事件当時、一緒にいた女子生徒(15)によれば犯人は「小太りの20~30代の男」だというが、犯人にはどんな動機があったのだろう。犯行は通り魔的にも見えるし、初めから被害者を狙っていたようにも見えるが、どちらにしろ、このような事件が起きて感じるのは「自分もいつ暗闇で何者かに襲われるか分からない」という漠然とした恐怖だ。

 今回は、そんな恐怖を感じながら傍聴したこの事件を紹介する。

 2007年、川崎市宮前区で帰宅途中の女性会社員(当時40)が刺され、重傷を負った。ほどなくして逮捕されたのは、川崎市高津区に住む鈴木洋一(当時26)。鈴木は事件発生から約1時間後に宮前署を訪れ、「車で近くを通ったら男が女性を追いかけるのを見た。男を止めようとしたが手を切られた」と言っていた。逮捕直前にANNのインタビューに答え「(被害者が)自分の顔を見たとき『ギャー』と声を出して、それにびっくりして止まったけど、犯人を追うことを優先した」などと語っていた。この映像はご記憶の方もいることだろう。

 そして横浜地裁川崎支部で行われた裁判。鈴木は「公訴事実はすべて間違ってる」と真っ向否認。さらに、被告人の言い分を述べることのできる唯一の場・被告人質問(弁護人から)でも「何もございません!」と一言もしゃべらない。対する検察側からの被告人質問でも、こんな有様だった。

検察官 「あなた平成19年の4月5日、午後10時25分頃、現場近くの路上にいた事実はありませんか?」
鈴木 「お答えできませんっ」
検察官 「被害者の女性を、刃物で刺しましたか?」
鈴木 「お答えできませんっ」

 否認してる被告人というものは、だいたいが必死に自分の無実や罪の軽さを訴えるものである。ここまで何も言わないのは珍しい。

検察官 「梶ヶ谷のトンネルの件は、あなたがやったんですか?」
鈴木 「お答えできませんっ」
検察官 「さきほど、答えられないと言ってましたが、やってないなら、やってないとなぜお答えできないんですか?」
鈴木 「お答えできませんっ」

 意外な質問に法廷は静まり返った。「梶ヶ谷のトンネルの件」とは、この裁判とは関係のない別の事件である。この殺人未遂事件の前年、同じ宮前区にある梶ヶ谷トンネルで女性が刺殺されたという事件だ。未だ犯人は見つかっておらず、未解決となっている。事件発生時期も近ければ、現場も近い。刃物による通り魔的犯行という手口も同じ。誰もが鈴木の犯行を疑うが、それはそれ。別件である。検察官も思いっきり、梶ヶ谷の事件も鈴木の犯行だと疑っているのがありありと分かるやり取りだった。

 起訴されている殺人未遂の被害女性の調書にはこうある。

「歩いている途中、車の後ろのガラスに黒い人影が映り、そのあと、ドン、と左の背中を押される感覚がしました。左回りに振り向くと、がっちりした人が立っていました。何かされると怖いと思い、走って逃げましたが、その人は追いかけてきたので、怖くて叫びましたが、周りには他の人の気配が全くありませんでした。団地に向かうか曲がるか迷っていたところ、明かりがついている家を見つけて、助けて、と叫びました。男は斜め後ろに立っていて、手を振り上げるのが見えました。さらに叫び続けていると、家の中から人が出てきて、助かったと思い、後ろを振り向くと、男が逃げていきました。
 その男は身長175センチくらい、がっちり型、丸顔で前髪がくせ毛で眉は太かったです。目はよく覚えています。門のところで叫んでいて、後ろを振り返った時、顔をよく見ました。男は目がギョロッとしていました。
 しゃがみ込んだら、背中がおかしいと思い、触ると、血がべったりとついていました」

 被害者が犯人の顔を覚えていたこと、また鈴木の靴に被害者の血痕がわずかに付着していたことが逮捕の決め手となったようだ。

 被害女性は引っ越しを余儀なくされ、現在も体に麻痺が残っているという。

 結局、本人はなにも語らず終わったこの裁判。鈴木が犯人ではないという可能性も残しつつ、後味の悪い終わりとなった。ただひとつ分かったのは、このように見ず知らずの女性を包丁で刺し殺したいと思い、実行するような人間がこの世にホントにいるということだけだった。鈴木には懲役10年の判決が下り、確定している。
(文=高橋ユキ)

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