◆さすらいの傍聴人が見た【女のY字路】第17回

【裁判傍聴】ジャニオタ女の一途過ぎる一方的愛情

51J8zKbn+GL._SS500_.jpg*イメージ画像『ジャニヲタ 女のケモノ道』 著:松本美香/双葉社

 一途すぎる女も、ちょっと問題だ。2006年1月、他人のマンションの敷地内に入ったとして現行犯逮捕されたY子(当時43)。窃盗の前段階で住人に見つかった……というような、いわゆる泥棒ではない。このマンションに住む「ジャニーズJr.」の元メンバーA氏(当時25)に対する、ストーカー行為の果ての逮捕であった。

 初公判は同年3月、東京地裁にて行われた。Y子はやせ型で茶髪、背は低い。年齢よりもずいぶん若く見える可愛らしい女性だが、なぜかズボンの裾を、厚手の茶色の靴下の中に入れていて、おじいちゃんみたいだった。

 当時の報道によれば、Y子は01年頃から、A氏を自宅近くや駅の改札で待ち伏せたり、電車の中で無言で見つめたりしていたという。また、ツーショットのプリクラを合成し、A氏に送ったこともあるらしい。当然の流れか、05年夏に、ストーカー規制法に基づいた禁止命令を受けていたものの、それにも関わらずA氏宅の前で待ち伏せや見張りを数回行い、禁止命令を違反していた。A氏の立場からすれば、さすがに恐怖だろう。

 冒頭陳述によれば、97年からA氏のファンになったというY子。コンサートに通ったり、ブロマイドを多数購入するなどの、いわゆる普通のファンだった。だが、00年、A氏が引退してからY子の暴走が始まる。自宅の住所を割り出し手紙を送ったり、尾行などを行うようになった(この時期、A氏はY子へ『迷惑だから止めてほしい』と手紙を送っていることが明らかになっている)。想いは強くなる一方だったのか、なんと04年にはA氏宅近くにマンションを購入してしまう。

 そして事件当日。A氏の顔を見たいと、A氏宅の近くから部屋のベランダを見つめていたY子。会いたい気持ちが抑えられなくなり、マンションへ入ることを決意。オートロックのA氏宅だが、他の住人にまぎれて一緒にエントランスを突破し、A氏の部屋のインターホンを押すなどした。そしてA氏の父から取り押さえられ、現行犯逮捕……という流れだ。

 A氏の父の調書。

「ドアスコープを覗いたら人が見えた、と妻が言うので。姿が消えてから部屋を出た。女は毛糸の帽子に白いマスクをつけていた。通り過ぎる際に声をかけ、マスクを取り、顔を確認して捕まえた」

 Y子は家族に面が割れていたようだ。そんな彼女の逮捕当時の調書。

「事件の日、一旦自宅に帰ったけど、落ち込んでいたので、顔を見て元気になりたいと……。マンションに入り、エレベーターで上に行き、東京タワーの夜景を見ていました。1回降りて、居室の目の前で5分くらいうろつきました。でも深夜1時過ぎで遅い時間だから諦めて降りた時に、捕まえられました」

 「1時過ぎで遅い時間」と常識ある発言をしながらも、他人のマンションの敷地内に入ってしまう……このアンバランスさに困惑させられる。1時過ぎてなければ何をしていたのだろう。

 読み上げのとき、Y子は泣いていた。

 そして被告人質問。敷地内に侵入した理由を弁護人に問われ、

「再就職した先で、1人で債権整理の仕事をまかされて、土日も休みがなく、心身ともに疲れてた……。帰宅は、早くて21時……遅くて23~24時……。睡眠時間がほとんどなく、体がダルくなり、集中力がなくなっていました。
 (Y子には夫がいたが)98年に子宮頸癌の手術をして、子どもが産めない体になってしまい、01年に離婚……。相手から『子どもが欲しいから、できないなら離婚してほしい』と言われました……」

 かなり辛酸をなめてきたようである。離婚のいきさつを語るとき、再びY子は泣いていた。

「1人で悩みをかかえこんで、相手に一方的に救いを求め、依存する気持ちが強くなり、自分の感情が勝って、してはいけないことをしてしまった……」

 と反省で締めていたが、裁判官は納得いってない様子で、アイドルにのめり込んだY子の心理を追求しようとした。

裁判長「あなた、自分の感情が勝ったって言うけど、感情ってどういうこと?」
Y子「依存してしまう、相手に救いを求めてしまう気持ちが強くなる……」
裁判長「その人の顔見ると、癒されるの?」
Y子「ハイ」
裁判長「相手、嫌がってんでしょ? 嫌がってても、見ると、気持ち癒されるの?」
Y子「100%と言われると、分かりませんが、自分でそう思おうと……」
裁判長「一線を置く。それが一般の接し方と言うか、アナタの歳からしたら、ここまでね……尋常じゃないよねえ……分からないねぇ、人の気持ちはねぇ……」

 判決は懲役1年、執行猶予3年。言い渡しの後、再度、裁判官がY子へアツく語った。

「コレは私の無責任発言かもしれないけどね、あなたに”辛さを癒したかった気持ち”それもあったと思う。でも、(それは)自分の感情。相手の気持ちを顧みず、感情だけで行動しちゃった。社会人としては、許されない! そこの問題、気づかなきゃね。直せとは言わないけど、気づけ、と言いたいね! これからきっと、軋轢生じるよ? 人間関係で。そこでどう対応するかだね!」

 執行猶予の安心も手伝ってか「ハイッ」と元気の良い返事を返していたY子。マンションも売却したという。その後、報道を賑わせてはいないので、おそらく元気にやっていることだろう。

 18も歳が違う元アイドルに本気になりすぎてストーキング……。たしかにY子の人生は波瀾万丈で、離婚に至る経緯はかなり気の毒ではある。でも、裁判官が言う通り、癒しを求めるばかりで行動していたわけではないように見える。好きすぎて、いつでも姿を見ていたい、とかそういう状況だったのだろうとは思うが、そこまでやると、好きな相手に嫌われる、と思わなかったのか。Y子の供述によれば、薄々分かっていたというが、迷惑だ、と意思表示を受けているにも関わらず、止まらずに突っ走ったのはなぜだろう。妄想の中では、A氏が受け止めてくれると思っていたのだろうか。

 しかし、寝る間もなく働いて疲れていたというなら、待ち伏せなどするより寝た方が良かったのでは? この情熱を別のものに向ければきっと大成するのでは……。
(文=高橋ユキ)

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