◆さすらいの傍聴人が見た【女のY字路】第1回

ホームレスを手なずけ、大家を手にかけたA子のプライドとは

2207801517_198000dbbc.jpg※イメージ画像 photo by Breathtaking Photos from flickr

 皆様初めまして。私は昔「霞っ子クラブ」という傍聴グループを作り、同タイトルのブログを書いていた高橋ユキと申します。凶悪犯罪の報道後の状況が知りたく裁判所に通い詰めた挙げ句、現在はライターみたいなことになっております。今回は、女の犯罪に焦点をあて、女たちの生き様をお伝えしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 例えば浮気がバレると、通らないウソを突き通し、ありえない論理展開で男をケムに巻こうとする女がいるが、おそらく彼女も、そのタイプだろう。

 A子(57=逮捕当時)は関東のとある町で雑貨&占い店を営む主婦。階上に住む大家のKさんを、店の常連であるWとともに殺害、遺棄し、現金やカードの入ったバッグを盗んで逃走。その後スーパーで食料品やウイスキーなど80点、計4万弱を、盗んだカードで支払ったとして強盗殺人、詐欺、死体遺棄の罪で逮捕起訴された。

 荒々しい事件に似合わず、法廷に現れたA子は小柄で色白、メガネをかけたインテリ風の女性だった。上品さを演出するためか、謎の薄笑いを浮かべているが、罪状とのギャップが大きすぎ、違和感を覚える。

 検察によれば事件の経緯は以下のようなものだった。

 大家のKさんは、事件のあったマンションの3階に家族と住んでいた。その下の階をA子がテナント契約し、店を始めたのが2007年。しかし入居当初から、1階のテナントやKさんとトラブルが絶えなかった。Kさんに「おたくのネコがうちのイカを食べたから100万円払え」と言ってみたり、郵便物を抜き取ったり、1階テナントの所有物を勝手に盗んだり、マンション入口の共用スペースに「P」と勝手に描き、駐車場にしてみたり、と勝手し放題。自分の身近には絶対いてほしくないタイプだ。

 86円の激安雑貨と占いがウリだったA子の店だったが、徐々に経営不振に。2年後には家賃の支払いが滞り始めた。ちょうどこの時期、Kさん宅から水漏れが起こり、A子の店も若干の被害を受けてしまう。それを逆手に取ったA子、何だかんだと言いがかりをつけ、損害金の支払いを主張し、「相殺だ」と家賃支払いを堂々と拒むようになった。困り果てたKさんは契約解除通知をA子に送りつけたがそれにも応じず、ついには民事訴訟に。A子は当時、未払いだった家賃を支払うか、立ち退くか、どちらかの選択を迫られていた。

 一方、共犯のWは店の近くを縄張りとする公園暮らしのホームレス。A子の店には何度か行ったことがあり、顔見知りだった。A子も力仕事を頼んだり、そのお礼に、と夕食をご馳走したりしていたという。そんなWに、多額の報酬をチラつかせ、Kさん殺害を依頼したのだ。

「あの男はこの店を潰そうとしている。金を返してくれない。通帳を奪ってやる。手伝って。金を下ろしたらアンタにもあげるから」──Wはこれに乗った。

 が、まず宅配便業者を装いKさんを連れ去ろうとして失敗。次に2人掛かりで店内に連れ込んで殺害しようとして失敗。そして3度目、店の前を通り過ぎようとしたKさんを店に引っ張り込んだ。すごい執念である。そして主婦のスタンダードアイテム、エコバッグをKさんの頭にかぶせ、ガムテープを巻き、さらにその上からベルトで首を絞め、殺害。夜になるのを待ち、遺体を運び出し、近くの川に遺棄した。

 50代主婦の荒くれた所業。エコバッグの使い方を完全に間違っている。つくづく、風貌とのギャップが大きすぎる事件だ。

 Wは事件について全てを認めており、A子の公判より前に有罪判決が下されている。そんなWの供述。

「A子に指示されて、手伝った。A子は、Kさんの太ももを刺したりしてて、オレは『殺しちゃいな』って言われた……。遺体を捨てたあと、店に2人で寝たんです。A子はベッド、自分は椅子みたいなので。で、『そっち行っていいか』って聞いたんすよ、したら駄目だって。で、何もなく」

 約束していた多額の報酬については、

「結局、先生(A子)からは500円しかもらえませんでした。『アンタね、私アレだから、借金あるから』って。思いましたよ、何で500円なんだって。でも先生は『私の顔はもう忘れてね』って。もう言ったってしょうがないって思ったから、コーヒー買って、タバコ買って、安酒買って」

 なんとワンコイン。一緒に寝ることも拒まれ、報酬は500円。しかもA子を”先生”って。「占いやってたんで先生と呼んでた……」とは言っていたが、おそらく完全に支配下に置いていたのだろう。Kさんはもちろんだが、Wもかなり気の毒だ。

 大家の人生を終わらせ、Wさんの人生も狂わせたA子は、強盗殺人、死体遺棄について「やっておりません」と上品に完全否認。「Wが単独で実行したのです」として無罪を主張した。そして公判では迷言のオンパレード。

「私、病気がたくさんあります。不眠症、甲状腺機能低下症、弁膜症、胃潰瘍、子宮ポリープ、腱鞘炎、右肩を手術して3カ月入院……洗濯物を干す作業、これできません」

 と洗濯物を干すジェスチャーをしながら”手が上がらない”と主張。また件の水もれ事件については、

「私の店、全部86円の品物ですが、奥には高級品が置いてあるんです。大変な被害を受けました。ルイヴィトンとか、パールとか、そういう高額商品……。そこに汚い水が! ぐしょぐしょになって、売り物にならないんです! なので水漏れをきっかけに、家賃の支払いを止めました」

 と、にわかには信じ難い「高級店」発言。

「Kさんの郵便物を勝手に抜き取ったりもしていませんし、共用スペースに『P』と描いたのはもちろん許可を得たからです」

 これまでの狼藉についても否定&正当化。

「『一期一会』から店の名前をつけました。1人1人との出会いを大切にしたい……。クライアントさんからは店を……最後の砦だと、癒されると言われていました」

 最後は客を「クライアント」と呼びながら自分の店の大切さを猛烈アピール。事件に関係のない話ばかり長々と語る始末だった。

 Wに動機は全くなく、事件の日、2人で大きな荷物を車に運び入れているところを目撃されている。結局、A子には無期懲役の判決が下されたが、そもそも家賃支払いのトラブルで殺害にまで至ってしまった、その”やる気”については最後まで理解できないところがある。否認していたので本人が語ることはなかったが、素直に立ち退きしたくなかった理由とは一体なんだったのか。公判で時折垣間見せた店への愛情ゆえ、何としても店をあの場所で存続させたい、とそれだけしか考えられなくなっていたのだろうか。しかし、仮にそうだとしても、これまで目立った前科がないA子が、これほどの事件を起こすということがアンバランスだ。完全犯罪を目論んでいたのかもしれないが、だとしたら、あまりに稚拙という他ない。

 最後までKさんへの謝罪は一言もなく、奇想天外なウソをつき通し続けたA子に女の根性を垣間みた公判だった。

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