芸術作品を警察から「ワイセツ」と指摘され巨匠が激怒した事件

0521gagagagarn_fla.jpg※イメージ画像:Thinkstockより

 明治28年(1895)4月1日、京都で開催された内国勧業博覧会に出展された一枚の絵画が事件の発端となった。

 その絵画とは、黒田清輝の『朝妝(ちょうしょう)』で、外国人らしき全裸の女性が鏡の前に立って髪を束ねているところを描いた作品である。身支度や化粧などをするごく自然なポーズで、構図やアングルもとくに奇異な物ではない。また、作者の黒田清輝は当時28歳、海外でも才能を評価された新進気鋭の画家である。この作品『朝妝』も、海外で認められ、日本でも明治美術会第6回展に出展された実績を持つ。

 ところが、この作品に対して「ワイセツだ」との声が起こった。4月7日の『東京朝日新聞』に掲載された「内国勧業博覧会」という記事の中の「美術館内の裸体画」と題された項目で、この『朝妝』が取り上げられている。そのなかで、「或る筋の人」の弁として、美術展などに出品されるような美術品の条件として、「両股相接する体勢を顕わし陰毛を描かず」というようなものが一般的なのだと説明されている。

 そして黒田清輝は、こうした風潮に真っ向から反抗していた。資料によれば、黒田画伯は日頃から「終始骨無しの人形ばかり描いていて美術国だといっていられるか」と周囲に憤慨を漏らしていたという。股間がツルンと何もない、そして不自然に足を閉じた女性画など、黒田にはつまらない木偶人形でしかなかったわけである。 
 

0521gagagagarn_chou.jpg※画像:黒田清『朝妝(ちょうしょう)』

 そして黒田は、人間らしいポーズを取った、成人女性ならばあるべきヘアを描いた作品を制作した。そして、内国勧業博覧会の審査員になった際、ここぞとばかりに『朝妝』を出展したのである。当然、主催者側もこれには驚いた。「いくら審査員で、しかもフランス帰りの画家だからといっても、この作品は刺激的すぎないか」

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