『例えるならあなたは夢着るヌーディスト』 

自己発信するAV女優の「裸の言葉」vol.2 AV女優の横顔(翔田千里編)

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 AV取材を始めて16年になります。けれども、AV女優たちの横顔を見つめたことなど一度もなかったのだと、初めて気づいたのは、恥ずかしながらほんの1カ月前のことなんです。

「え? …………何のため…に?」

 その日、肩先が触れ合うほどのすぐ隣。私の顔を驚いた顔で見つめたのは、熟女AV女優の翔田千里さんでした。さっきまで夢見るように瞳を輝かせていたその顔は、ほんの一瞬で蒼白になり、彼女はそっと私から目を反らしました。その思いつめたような横顔を目の当たりにして、気づいたのです。16年もの間、とても近くにいたはずのAV女優たちの横顔を見たのはこれが初めてなのだという呆れた事実に。

 さて、今さら翔田千里さんって誰? なんて人も少ないかと思いますが、形式にのっとり紹介いたしましょう。

 デビューは2005年。それまで一般企業に勤めていた、シングルマザーの翔田千里さんの初撮影は、素人妻の一人として出演したオムニバス作品でした。デビューこそ目立たなかったものの、その類まれなる凛とした美しさが注目され、わずか数カ月で、かの熟女界の目利き・溜池ゴロー監督の目に留まり「高嶺の花」と称されるまでに。また1年後には、出版界の鬼才・高須基仁氏が主宰する熟女クイーンコンテストの初代クイーンの座を手にしたAV界の逸材です。

 当時は、熟女AVはまだまだマニアのカテゴリーに属しており、30代も半ばを過ぎたオバサンがAVデビューすることに関して、世間には明らかな偏見が残っていました。しかし、翔田さんの活躍と共にAV界に『美熟女』という新ジャンルが生まれ、一目置かれる存在となったばかりか、今なお続く『熟女ブーム』の礎を築いていったのです。

 そのような偉大な名女優に、私はとんでもない顔をさせてしまったわけで……。

 なぜ、そんなことになったのか。そして、その結果、抱いた新たな想いを今回はお話していきたいと思います。 
 
 

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 それは、私がプロデュースを務めたとあるイベントの打ち上げの席でした。私と翔田さんは肩を並べて、その日の反省会を行っていました。議題は『女性ユーザーを取り込むことでAV界を活性化させたいのだが、今、我々にできることは何か?』。難しいと思われていた新人男優を主役とした女性向けイベントを大成功させた私たちは、アルコールの力も借り、いつも以上に熱っぽく語り合っていました。

「せっかく火が付いた人気を絶やしちゃダメだよ。みほちゃんがもっと前に出ていかないと!」

「私にできますか?」

「できるよ~。何が不安なの?」

 不安の種など数えはじめたらきりがありません。アダルトライターになって16年。最初は面白がって、そのうちに目立たぬように、ここ数年は意地になって裏方の美学を唱えては、陰の立場から「よっこいしょ」と、汗水たらしてAV界を盛り立てることに人生をかけてきた私なんです。それが、今さら表舞台に立つなんて!?

 時計を見ると午前3時。数え切れないほどのウーロンハイを飲み干して、こっそりとウーロン茶をグラスに注いだ時間帯でした。そして私は、少しクールダウンした頭でこう問いかけたのです。

「では、翔田さんは何のために自主的にイベントを開催しているんですか?」

 その答えが冒頭の一言です。

 その時の翔田さんの顔を、私はこの先、一生忘れないでしょう。驚きながら目を反らした彼女の顔は、まるで「何のために生きているのか?」と問われた人のように硬直していたのだから。

 当然、私は彼女にこんな顔をさせるために質問したわけではないんです。

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