エロワングランプリとは…? 官能小説の雄・フランス書院が仕掛ける新たなエロスの潮流

 官能小説の雄・フランス書院が今年創刊35周年を迎えた。

 まだ学生の頃、町の本屋の片隅にあった黒い背表紙とタイトルの淫靡さがまぶしかった。エロさへの興味は、多かれ少なかれ誰もが持っているのではないだろうか。エロさへの興味は、人が持つ欲求の一つである。そうだ、恥ずかしいことじゃない、と思い切ってコーナーの前で立ち止まり、棚から一冊を抜き出して読み始めるまでに、かなりの時間を費やしたことを覚えている。

 

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※画像:フランス書院公式サイトより


エロワングランプリ

 最近、店頭で「エロワングランプリ」なるフェアを見つけた。

 「エロワングランプリ」とは、創刊35周年を迎えたフランス書院のラインナップの中で、どの地域で、どんなタイトルの本が多く読まれたかを集計し、それを地域別にランキング形式で展開したフランス書院のフェアのようだ。

 じつに興味深い。へえー。この地域では、こんなタイトルの本が好まれているのか。おおおー、あの区ではこのタイトルが人気なんだ。等々、これは、まさにフランス書院の売れ筋から見たその地域のエロさの歴史といえるのではないか、と興奮してしまう。

 生憎、筆者の住む地域の書店では、僕の住む地域のランキングフェアしか扱っておらず、他の地域の結果がどうしても知りたくて、フランス書院編集部に取材を申し込み、厚かましくも35周年のフランス書院の歴史を教えていただいた。

 編集部の皆さん、ご協力いただきありがとうございます。

 

【編集部談】

フランス書院文庫の売れ筋の変遷

1980年代 それは禁忌小説と本格凌辱から始まった

 フランス書院文庫が創刊されたのが1985年。当初から誘惑系と凌辱系という大きな二つの潮流があった。

 誘惑小説とは、女性が積極的に男性をリードする作品を指す。男は基本的に「待ち」の姿勢で、義母、兄嫁、女教師など、年上の女性から手ほどきを受ける。代表的な作品は『叔母・二十五歳』(著・鬼頭龍一)、『僕の母(ママ)』(著・高竜也)、『義母と姉の寝室』(著・由布木皓人)…などである。

 当時の誘惑小説には「禁忌」を売りにした作品が多かった。たとえば義母が息子と寝る場合、禁断の一線を踏み越えてもいいのか、ヒロインは悩み苦しむ。当然すぐには体を許さない。

 だから、本命のヒロインと寝る前に、叔母とか隣家のお姉さんとか女家庭教師とか、サブヒロインが少年の相手役を務め、初体験もそういった本命以外の女性で済ませる。やがて二人の関係を目撃したメインヒロインが(他の女に奪われるくらいなら私が…)とようやく重い腰をあげる。最終章でようやく本命の義母と合体というパターンも多かった。

 一方、もう一つの潮流が凌辱系だ。男が力ずくで女をモノにする作品である。

 当時は「本格凌辱」と呼ばれる作風が多かった。濡れ場に入る前の序盤がしっかりと描かれ、緻密に張り巡らされた罠にヒロインは堕ち、篭絡されていく。代表的な作品は『女教師・二十三歳』(著・綺羅光)、『牝檻』(著・蘭光生)、『人妻屈辱日記』(結城彩雨)などである。

 ヤクザ(今でいう半グレなども含む)が凌辱者であることも多かった。圧倒的な権力や暴力を武器に、気高く美しい女性を狩っていく、力こそすべて――日本が高度成長していく時代、読者の男性も、登場する凌辱者たちも自信に満ち溢れていた。

 なお、禁忌をテーマにした誘惑小説は今ではもう見かけなくなったが、「本格凌辱」は35年以上にわたって続き、現在はフランス書院文庫Xというレーベルで名作が復刊されている。ご興味がある方はぜひお読みいただきたい。

 

1990年代 フェチとマゾヒズムの台頭

 禁忌をテーマにした誘惑小説という流れは引き継がれつつも、濡れ場がよりハードに、濃厚になっていった。『若義母・ダブル交姦』(著・西門京)などを読めば、80年代との差はわかりやすい。

 また『性獣家庭教師・狂わされた母と息子』(著・田沼淳一)のように、ドロドロ相姦とも呼ぶべき凌辱と誘惑がミックスされた作品も現れた。やはり求められたのは、より激しい濡れ場である。

 一方で『隣りのお姉さん・少年狩り』(著・櫻木充)などの、脚フェチ、ストッキングフェチの嗜好を満たす作品が出現したのもこの頃だ。フェチは映像ではともかく活字では表現しにくいと思われていたが、実力のある作家たちの登場で受け入れられるようになった。

 一方、凌辱系では自ら被虐に落ちていくマゾ女性を扱う作品が一大ジャンルを築いた。『M義母・麗子』(著・佳奈淳)、『女教師・Mの教壇』(著・伊達龍彦)などがそれである。凌辱され、堕ちていくのではなく、自らの意志で堕ちることを望む女――マゾ気質な女性が読者の人気を集めた。このジャンルからは、可愛らしいヒロインが続々と生み出された。

ちなみにライトノベルのメイド系ヒロインには、マゾ小説のヒロインと似た匂いを感じる。「ご主人様、ご奉仕いたします!」と主人にけなげに服従を誓うヒロインは、マゾ小説のヒロインそのものである。

 90年代は、凌辱系でユーモアのある作品も増えてきた。『レイプ女子体操部 引き裂かれたレオタード』などを刊行した海堂剛などがその代表的な作家である。凌辱をマジにやってどうすんの? とでも言わんばかりの軽く・ゆるい作風が受け入れられるようになったのは、日本社会が成熟した証しだろう。

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