下半身がだらしない夫は妻の財産を処分する権利なし


 しかし、一審では法律上の離婚が成立していないとの理由から、アヤノさんの請求を却下。二審でも同様の理由から控訴が棄却された。

「やはり、法律の前では無理なのか」

 そうあきらめかけていた彼女だったが、念のためと周囲に薦められ、意を決して上告した。

 そして7月24日、大審院(現在の最高裁に相当)が下した決定は「一審、二審判決の破棄」だった。

 大審院の裁判官は、次郎兵衛とアヤノさんの結婚生活について詳細に調べた上で、すでに結婚生活は破綻しており、アヤノさんの主張に理由ありと認めたのである。そして、「原判決は法の条文に拘泥し立法の精神を忘れたものである」と断言、裁判を二審の高松地裁へと差し戻した。

 この裁判は、いくつもの点で画期的である。妻の主張にも一理ありと認めたことや、法律をただ字面だけで判断すべきではないと理解したこと、そして何より、上告審で裁判官が事実関係を詳細に調べ上げるというのは、法律審に終始する現在の最高裁ではほとんど考えられないことだ。

 そして、法律などよりも実際の夫婦関係が破綻しているかどうかが最重要ポイントであることは、現在の裁判等でも常識になっていることはいうまでもない。

 それにしても、最近の裁判ではこうした「血の通った」判決はほとんど見かけなくなった。まさに「法律の字義のみによった」裁判官ばかりが目立つ。裁判官も人間なら、法廷に立っているのも同じ人間だということを、もう少し理解してもよいのではと感じることが、はなはだ多い。
(文=橋本玉泉)

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