自宅でいつもより念入りに身体を洗い、いつもの数倍の時間をかけて身だしなみを整え、待ち合わせ場所に向かう。
約束の5分ほど前に到着したのだが、そこにはすでにミチルちゃんが不安そうな表情を浮かべて待っていた。
慌てて彼女に駆け寄り、声をかける。
「お待たせ、ミチルちゃんだよね?」
「あ、はい。はじめまして、ミチルです」
「ゴメンね。待たせちゃったかな?」
「い、いえ。私が早く来すぎただけですから」
「で、早速なんだけど、こんな感じの俺だけど大丈夫?」
「え?」
「いや、写メと違うとか、やっぱりキモいとかだったら無理しなくていいからさ」
「そ、そんなことないです」
「でも、いきなりホテルだと怖いだろうから、軽くお茶でもしようよ」
「は、はい」
今すぐホテルに行きたいのはヤマヤマだが、ここで焦っては失敗する可能性が高くなってしまう。それに筆者にしてみれば、エッチ前にお茶するのもプレイの一環だ。
助平そうな表情が前面に出ないよう、懸命に真面目な顔を造りながら彼女を先導して喫茶店に向かうことに。
地下街の外れにある喫茶店に入り、お茶をしながら会話を開始する。
「ね、本当に無理してない? ここでお茶して、おしゃべりだけで帰ってもいいんだよ」
「大丈夫です。トコショーさんのこと信じてますから」
メールアドレス以外に電話番号を交換していて、電話で何度か会話もしていた。正直、時間と手間がかかり面倒に思うこともあった。しかし、処女という獲物を釣りあげるために焦りは禁物だ。それゆえ真摯な態度で彼女に接し続けていたわけだが、それが奏功したのだろう。
「そっか。ありがとう。でもちょっと信じられないよ」
「え? なにがですか?」
「ミチルちゃん、それだけ可愛いんだから、彼氏とかたくさんいたんじゃない?」
「高校の時、ひとりだけお付き合いしそうになったことがあるんですけど…」
「あ、電話でもそう言っていたね」
「実はその彼、すっごく暴力的で…」
「え? DVされたとか?」
「いえ、ぶたれたことはないんですけど…」
暗い表情で口ごもってしまうミチルちゃん。どうやらこの話題を続けていては、地雷地帯に突入してしまいそうだ。
「あ、ごめん。変なこと思い出させちゃったね」
「い、いえ。平気です」
「俺は女性の嫌がることが死んでもできない性格だから、その辺は安心してね」
「フフ、なんかそのセリフ聞いたことがあります」
「あ、たぶんメンズサイゾーのコラムじゃないかな?」
「ですよね。本当にそんなこと言ってたんですね」
「ああ、そうだよ。だってそれが俺なんだからさ」
「はぁ、良かった。トコショーさんが記事通りの人で」
「そ、そうかな?」
「あ、でも記事の中のトコショーさんより、実物のほうがずっと優しそうです」
「そ、そう。でも、俺は優しいんじゃなくてヤラシイだけなんだけど…」
「あ! それも記事で見たことあるセリフですね」
「本当にすごく読んでるんだね」
「はい。トコショーさんに連絡する前にバックナンバーを何度も読んでますから」
明るい笑顔を浮かべながら会話してくれたミチルちゃん。待ち合わせ場所では不安そうな顔をしていたが、すっかり打ち解けてくれた様子だ。