奇跡の名作ポルノ『マル秘色情めす市場』を作った稀代の映画監督・田中登


 耐えがたい屈辱を受けた男性は、その安物のダッチワイフを膨らませ、むき出しで抱えたまま街中でヤクザと妻をつけ回す。無言で、不機嫌な表情でヤクザと妻を尾行するダッチワイフを抱えた男。最初はバカにしていたヤクザも、ついにうっとうしくなって男性を円筒状の廃墟の中に誘い込む。「ここで話をつけよう」というわけである。男性に近づくヤクザ。そして、くわえタバコを足元に捨てる。

 次の場面では、廃墟の外観。そして、ドーンという鈍いごう音が響く。

 男性は、ダッチワイフにプロパンガスをつめていたのである。そして、画面が変わると、男性とヤクザ、妻の3人が死んでいるところが映し出される。気弱な男の、最初で最後の復讐は成功したのだ。筆者は、これほど見事な、そして悲しい復讐シーンを見たことがない。

 ほかにも、白黒だった画面がいきなりカラーとなり、朝日、そしてにわとりのアップと続き、知的障害の少年が通天閣の上からペットのニワトリを「飛べ!」とばかりに放り出すシーンや、セックスの後で少年が首をつって死んでしまうシーンなど、一度見たら忘れられない名場面が満載である。

 DVDが発売されているが、ぜひともフィルムで見たい作品のひとつである。
(文=橋本玉泉)

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