『例えるならあなたは夢着るヌーディスト』 

自己発信するAV女優の「裸の言葉」vol.2 AV女優の横顔(翔田千里編)

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 ここまで凄いと人間は脅威に感じるものなんですね。楽しい気分の反面、翔田千里の実力を見せつけられ、並々ならぬ衝撃も受けました。一体、翔田千里って何者なんだ、と!

 でもね、間違っても雲の上の存在だとは思っていませんよ。それは、私は知っているから。開始直前まで不安そうな顔で無理に笑っていた姿を。リハーサル中、なんども秋山さんに「大丈夫だよ、姉さん」と励まされていたことを。

 だからこそ、聞いたのです。苦労を知った上で「何のために?」と。失礼な質問だと分かっていたけれど、きっと答えてくれると信じていたから。私が初めて翔田さんを取材したのは2007年のこと。『「熟女の口はもっと嘘をつく。」 熟雌女anthology #020 DX』の撮影現場でした。当時すでにトップ女優の地位を確立していた翔田さんでしたが、とても気さくに取材に応じてくださったこと、今も覚えています。不思議なことにどんな話をしたのかも、しっかり思い出せるんです。今思えば、それだけ魅力のある人で、私にとって大切な存在だからなのでしょう。それから何度、取材をさせていただいたことか。私にとって最多取材回数を記録する女優であり、唯一の逆インタビューを受けた女優でもあるんですから、きっと上手い説明をしてくれるはず──。

「考えたことなかったな……。私、せっかちだから、やらなくちゃってそれだけで……」

「…………っ!」

 さて、結局、その日はそれで解散になりました。朝日が昇りかけた新宿のど真ん中、翔田さんが名残惜しそうに手を振って帰っていったとき、ほんの少しチクリと胸が痛みました。

 しかし、それから数時間後、こんなメールが届いたのです。せっかくなので本文を掲載させて頂きますね。

「こんにちは。昨晩は有意義な談話に参加できて楽しかったです。昨夜、改めて自分発信でイベントを企画している理由を自問自答してみたのですが、今こうして活動できているのは、応援してくれるファンの方々や事務所、各メーカーさんやスタッフの皆様のお陰。その感謝の気持ちを形に、恩返しで自分ができる業界の繁栄、関わってくれた全ての人達と共有したいという使命が根源にあること。自分を突き動かすのはそこなのです。

 経験を重ねて見えてくるもの。この業界を辞められない理由もそこに繋がります。

 個体としての自分はちっぽけだけど、同じベクトルを持った方々とまだまだ業界の未来を諦めずに、自分ができることをコツコツと継続していきたい。みほちゃんも私も…いつか小さな花が咲けば御の字の精神で前進していきましょ~」

 あまりに生真面目で、それでいて熱を帯びた言葉に寝起き早々、涙がジワリ……。まさか、そんなにも翔田さんを急き立てていただなんて。そして、こんなにもあたたかい言葉をくださるなんて。そして最後は、こんな一言で締めくくられていました。

「益々、自分の中に火がついちゃいました(笑)」

 あらま。大女優のカラダに、火をつけちゃった!? 泣いたカラスが即ニヤケ顔になって、さらに熱い言葉で返信した私。すると、もっと熱い言葉が返ってきて…。今思えば、休日の昼間から、熟女2人が何をやっていたんだか(笑)。

 そんな翔田さんに、この場をお借りして伝えたいことがあります。気づいていましたか? あのとき、青ざめた翔田さんの横顔を眺めながら、私の顔はもっともっと血の気が失せていたことを。実はあのとき、気づいてしまったんです。これまで私は、AV女優の顔を正面からしか捉えていなかったという事実に。

 インタビュー取材の際は真正面に座り、AV女優たちの言葉を真っ直ぐに受け止め、真っ直ぐな文字で綴ってきました。たとえそれが綺麗ごとを並べただけの言葉だと分かっていても、斜め上から解釈することはしませんでした。なぜなら、AVはファンタジーの世界だから。そして、その語り部となることが私の使命だと信じていたからです。

 でも、これからは、それだけでは許されないようです。

 男は背中で、女は横顔で実に多くの事柄を語るものなんですね。AV女優としての正面の顔だけではなく、誰にだって影を帯びた横顔があり、人の魅力を伝える仕事をするならば、その両方を観て知って、決して2次元だけで物事を捉えてはいけません。そう、私を叱るあなたの声がしっかり聞こえてしまったのだから。

 AV界にて偉業を成し遂げ、その名を歴史に刻むであろう大女優・翔田千里。横顔ひとつで一人の人間を震え上がらせる偉大な存在と、たしかに私は肩を並べて語り合えた。その事実がこれからの私のエンジンになりました。

 次は誰の横顔を見に行きましょうね? つっぱしりますよ! どこかのせっかちさんに引き離されないようにね!
(文責=文月みほ)

■翔田千里ブログ「~as I am ~」
■文月みほブログ「私はAVを一万本観た女です」

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