三菱財閥きってのエロ収集家・斎藤延

1205mitubishi_fla.jpg※イメージ画像:『三菱財閥史(明治編)』著:三島康雄/教育社

 三菱といえば戦前では三井や住友と並ぶ巨大財閥であり、戦後に解体されたがその後再結集され、現在でもなお産業界ではその名を冠した企業グループが一大勢力として活動を続けている。

 さて、その三井や三菱といった大財閥の人物のなかには、潤沢な私財を文化的な方面に投じているケースが少なくない。たとえば三井11家のように、茶道などに通じ茶会や骨董蒐集で知られるといったものである。一方、三菱もまた古美術品や書籍文献などを収集した静嘉堂文庫や東洋文庫といった名高い文化施設を設立運営している。ほかにも、財界人の私邸や所有物件が、現在では文化財として残されているというパターンも少なくない。

 だが、そうした大財閥やその関係者たちによる文化的活動のなかには、アダルト系においても強い関心を引くものがある。三菱合資(三菱本社)に勤務していた斎藤延氏である。

 斎藤氏については、経済関係の資料にはほとんどその名が見られない。秦豊吉の著書『三菱物語』(1952年、要書房)にわずかに紹介されている程度である。

 同書によれば、斎藤氏は京都大学出身で中国語を得意としており、三菱では中国に対する投資事業を主に行う東洋課に在籍していたらしい。だが、事業に関する記述はまったくなく、その身は巨漢で健啖であり、天ぷらの名店で海老天を110個食べて「ナンバーワンの掛け札をかけさせた」という逸話が紹介されている。

 そしてこの斎藤氏が手がけたものとして、古今東西の名品を集めた、通称「斎藤コレクション」である。といっても、先に挙げた静嘉堂文庫や東洋文庫のようなものではない。いわゆる「エロ」をテーマとしたアイテムのコレクションである。

 

1205mitubishi_sub.jpg※画像:秦豊吉の著書:『三菱物語』より

 その内容は、和書、絵画、巻物、書籍、玩具類、彫刻や彫像、陶器を始め、関連資料や写真、絵葉書など、点数にして2万点以上という膨大なコレクションである。『三菱物語』には、その一部が紹介されている。たとえば、中国の明朝時代に成立したとされる『風動香浸』という書物は、見開きで春画と詩がそれぞれ1ページずつ掲載されている連作とのことだ。和物では、「見返り美人」で有名な浮世絵師の菱川師宣の作とされる「浮世恋くさ」ややはり美人画で知られる鈴木春信の「恋のうらかた」や「色手本」など。さらに、円山応挙の手による「絵本女夫図会松竹梅」なる作品は、男女のさまざまなセックスシーンを描き、さらにその一部のアップがセットになったという珍品だそうだ。

 ほかにも写真だけで3000点にも及ぶというから、実に興味深いものである。筆者もせめて目録だけでも拝見したいものである。ただ、浅学怠惰な筆者は、いまだにこの名品コレクションがどうなったのかつかめないでいる。今年になって三菱系の美術館で「斎藤コレクションが公開」との情報を得て喜んで駆けつけたが、その内容は元国会議員の斎藤文夫氏が集めた浮世絵を公開展示したものであった。同じ斎藤コレクションでも、まったく別物であった。残念至極である。

 蛇足であるが、最近でも事業に成功した財界人はいるものの、後世に残るような文化的な仕事をしたという話はあまり聞かない。村上ナントカやホリエモンどうたらや、製紙会社の御曹司などがいかに威張ったといっても、結局は飲み食いやバクチに費やしただけで、中身の希薄なつまらない小金持ちに過ぎないという感が否めない。最近の新興金持ち連中は、何ともスケールが小さくなったものである。
(文=橋本玉泉)

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