出版社がやらないならファンがやる! エロ劇画の巨匠・三条友美の未収録作品集が出版されるまで


■いまだ進化を続ける三条友美

──三条先生といえばベテランでありながら登場する少女が今風に可愛く、ストーリーも古臭さを全く感じさせない作家として知られています。先生とやり取りする中で、それを感じたことはありますか。

劇画狼「前作『寄生少女』発売前に、どうやって宣伝していくかを一緒に考えてたんですが、その中で『じゃあ宣伝動画作るよ!』と仰った時ですね。僕は『作中のコマをいくつか組み合わせた程度のもの』を想像していたんですが、出来上がってきたものを見て呆然。ちょっと作ってみましたってレベルを完全に越えた本格的なCGムービーだったんです」

──YouTubeでも公開されていますが、本職のCGアーティストと比べても遜色のない異常なレベルです。

劇画狼「完全に一人で作業されたとのことで、これはもう実際に見てもらえれば、三条先生のスキルがいかに出鱈目なレベルであるか分かってもらえると思います。昭和から時間が止まったようなエロ劇画界において、一人だけ圧倒的な進化をされている方だというのは以前にも言いましたが、それは3DCGを駆使した最新作『人妻人形・アイ』を読んでもらえれば、それは一目瞭然だと思います」

 

 
──守りに入ることなく、常に新しいものを吸収し続けていると。

劇画狼「そもそもまず、一年前のおおかみ書房立ち上げの際に『出版・編集経験は全くなく、このご時勢でアナログでプロの本を1000部単行本化する』という、どう考えても無謀な挑戦に興味を持っていただき、一素人ファンに大切な原稿を預けてくださったということ自体が、三条先生の新しいものへのチャレンジ精神を表すエピソードそのものといえるかもしれません」

──劇画狼さんのレビューが再評価につながったといえる「エロ劇画」の世界は、三条作品に限らず一部で静かなブームになっています。エロ劇画のどのような点に面白さを感じていますか?

劇画狼「やはり、ネット社会から隔絶された中で、描く側も編集側も読む側も、関わる人間全員が『自分が今どこにいて、何を求められていて、どこに向かおうとしているのか』を見失ってるところでしょうか。僕もエロ劇画のレビューばかりしていると、自分が生きているのは本当に『今』なのか不安になる時があります」

──それほどコアではないがエロ劇画に興味があるというライト層は、どのあたりから入っていけばいいですかね?

劇画狼「棒。『青山一海 棒』で検索して」

■1ヶ月半で1000部完売!インディーズ出版の可能性

──前作「寄生少女」は1ヶ月半で1000部を売り切ったとのことですが、今回は予約含めて売上はいかがでしょうか。

劇画狼「おかげさまで好調です。今回の『アリスの家』は1200部刷ったんですが、発売前の通販予約だけで半分以上がさばけている状態です。中野のタコシェさんや、まんだらけさん(池袋店以外の全店舗)でも委託販売させていただいているんですが、表紙に魅せられて買ってくださった方からの感想をいただくことも多いですね。なんとか今回も、2ヶ月程度で売り切りたいなと思っています」

 

1206sanjo_03.jpg画像:「アリスの家」(『アリスの家』収録)より

──全くの素人の状態からインディーズの出版レーベルを立ち上げたにもかかわらず、二冊の本は内容はもちろん、装丁なども非常に高評価を得ています。

劇画狼「編集・印刷に関して僕は素人だったんですが、おおかみ書房の編集最高顧問に元『ガロ』(※伝説的な劇画誌)副編集長の白取千夏雄さんに就いていただき、印刷屋さんもこちらのシビアな要望にきっちり応えてくれるところなので『商業誌以上のレベル』が実現できました。作る本の品質に関しては、今後もこのレベルを維持していくことは可能だと思います」

──同時に今後の課題も見えてきましたか?

劇画狼「これは身も蓋もないですが『自分自身の知名度』ですね。『寄生少女』『アリスの家』共に売れ行きが好調なのは、何より三条先生の知名度によるところが大きいです。今後、作品としては抜群に面白いけれど、1000部がすぐに売れるかどうかわからないレベルの知名度の作家さん・作品を世に出そうと思った時に『おおかみ書房の本』というだけでレーベル買いしてくれる読者がどのくらいいてくれるかどうかが重要になる。編集は裏方なので、あまり前に出すぎるのは良くないですが、同時に僕はレーベルの代表・広報でもあるわけなので、好きな作家に光を当てるために、まず自分が有名になりたいというのが正直なところです」

──確かにレーベルとして読者を抱えることができれば、どんな作品でも単行本にすることができます。劇画狼さんの成功が前例となって、インディーズレーベルが増えて競争が起こるなんて事態もあり得そうですが。

劇画狼「むしろ、僕の活動を知って『自分も〇〇先生の作品を単行本化したい』という人が増えてほしいです。実はこの一年で『金は出すから〇〇を単行本化してくれ』という話を持ってこられた方が結構いらっしゃいました。が、おおかみ書房は『おおかみ書房が出したいものを出すレーベル』なので、基本的にはお断りしています。でも『リスクを負ってでも自分がやりたいが、やり方が分からない。協力して欲しい』というのであれば、力になりたいですね」

 
■おおかみ書房の新たな野望

──レーベルとしての今後の予定がありましたらお聞かせください。

劇画狼「掟ポルシェさんがエロ雑誌などに連載されていたもので、内容があまりにひどすぎるから絶対に大手は出版しないだろうというコラム集を2014年春ころに出す予定です。それと同時に、90年代を代表するトラウマ作家・サガノヘルマー先生(代表作『BLACK BRAIN』など)とも、初期の単行本未収録作品集の打ち合わせを重ねています。これはまだ原稿が見つかっていないので、あくまで可能性があるというレベルの話ですが」

──さらなる目標はありますか?

劇画狼「実は一番やりたいのはエロ劇画ではなく、90年代後半から2000年代前半のホラー漫画ブーム時の単行本未収録作品ですね。40年前に大量に描かれて、全くと言っていいほど何の資料も残されていないエロ劇画と、90年代ブーム時に量産されたホラー漫画の置かれている状況は全く同じ。それならば、作家さんがまだ現役で原稿も残っているであろうホラー漫画を中心に、なんとか消える寸前ですくい上げたいという気持ちが強いです。本当は大手さんにやってほしいんですが、待っててもしょうがないので」

──エロ劇画もホラーもブーム時に大量生産されましたが、誰かが形にしなければ大半が消えてしまいます。是非とも埋もれかかっている優れた作品を単行本として世に送り出してほしいと期待します。

劇画狼「はい。そんな中で、エロ劇画・ホラーの両方を描き、今も進化を続けている三条先生の作品の本を「今」出すということには充分意味を持たせられたと思っています。今後も『おおかみ書房』をよろしくお願いします」

 採算度外視の一発企画ではなく、しっかりと「やりたいこと」と「継続のための売上」を両立し、レーベルの今後を視野に入れている劇画狼さん。未曾有の出版不況の折、出版社が泣く泣く見捨てた傑作がファンの手によって単行本化されていく未来が近付いているのかもしれない。
(文=佐藤勇馬/Yellow Tear Drops

■参考リンク:
『なめくじ長屋奇考録』
『人妻人形・アイ キャラクター公式カタログ』
■通販はこちらから:『おおかみ書房.com』

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