違法業者はなぜ同じマンションに集中するのか? 伏魔殿マンションの謎

horrorapato0627fla.jpg※イメージ画像 photo by albireo2006 from flickr

 例えば、博多の中州でも、名古屋の錦でも、札幌のススキノでも、どこでもいい。出張先の繁華街で夜の遊びを楽しんだ時のことを思い出してほしい。もしアナタが、もっぱら都心で遊ぶのなら、池袋や歌舞伎町、渋谷、上野といった繁華街のディテールを思い浮かべてほしい。

 やたらめったら、怪しげな店ばかりが入居する雑居ビルがなかっただろうか。この手のビルは、風俗店ばかりだったり、ヤクザ事務所ばかりだったりと、それぞれの業界で密集することが多く、素人目にはナゾめいているばかりである。ある不動産業者はこう語った。

「そういうビルっていうのは、とにかく前家賃さえ多めに払えば、審査もなく入居させてくれることが多い。相場で6~10カ月分くらいかな。実際にテナントを借りると、高額な保証金を払わなきゃならないし家賃も高い。だから、たいていは個人名義で『居住としての使用』を条件に賃貸借契約が結ばれているはず。だから無許可風俗店にしてみりゃ、うってつけなんですよ。だけど日本人の女の子はそんなヘンテコリンな店で働きたがらないから、たいていは出稼ぎの外国人風俗になることが多い」

 だが、風俗業界などは他店とのサービスに差をつけ、生き残りのため激しく競争しているはず。同じビルに同じような風俗店があったところで、そこには「競争自由」という資本主義の原則が働かないのではないか?

 その点について、ある風俗業者はこんな説明をした。

「そのビルに何件もの風俗店があったとしても、同じビル内で女の子を使い回せるメリットがある。店同士はつながっている。いってみれば、そういうビルは『現代版ちょんの間』なわけ。だから、指名さえ入っていなければ、客を待たせることなく『アナタの好みの女の子、スタンバイ・オッケーよ』と対応できる。この仕事、5分10分の差で他の店に客を取られちゃうんだから、とにかく口八丁手八丁で客をつなぎ止めるのは常套手段だよ」

 では、いわゆる「ヤクザ・ビル」についてはどうだろう。たとえば歌舞伎町などには、ヤクザの事務所の密集率がきわめて高いマンションが存在する。事情通が語ってくれた。

「歌舞伎町に限らず、どこの地方の繁華街でもそういう現象はあるんじゃない? それでも、地方だったら、組は違えどトップは同じ、というケースになるんでしょうが、やっぱり歌舞伎町は別格で、いくつかの広域組織が、同じマンション内に一家本部や組本部などを構えている。たいていは老舗だけどね。でも、そういう『ご近所さん付き合い』が、モメゴトの絶えない繁華街では、抗争の抑止力になっていることもあるでしょう」

 一方、捜査関係者からは、こんなコメントが公式に発表されたことがある。

「できるだけ、違法業者たちは一カ所に集まってくれていた方が都合のいい側面もある。風俗でもヤミ金でも、薬物にしたって、毎年数回は『取り締まり強化月間』というものがあって、一斉ガサをかけるときには効率がよい。けっして野放しにしているわけではない」

 まるで植物連鎖のような「繁華街のヤミの法則」である。

 最後に筆者の体験を紹介しよう。もう10年ほど昔になるが、池袋の繁華街からほど近いアヤシげな雑居ビルで、同業のライター仲間と仕事場をシェアしながら借りていたことがある。まともな入居審査がある部屋が借りられない者同士だったが、書類審査のようなものはほとんどなく、管理人の爺さんの判断と保証業者との契約と、6カ月分ほどの前家賃(礼金)で即入居を認められた。だが、やがて生活が苦しくなると、そこはオフィス兼、自宅としても使われるようになった。住んでみて気づいたのだが、同じフロアにはヤクザの事務所もあった。タイやらフェイリピンやら、東南アジア系の女の出入りも多かった。

 バブルで地上げされたまま塩漬けとなったのか、ベランダ側には建物がなく、ビルだらけの一角にぽっかりとエアポケットのような空き地があった。そのため、午後のひとときには心地よい西日が差し込み、その時間の昼寝が大好きだった。

 窓を開け放って太陽の光を浴びていると、上階からだろうか、ヤミ金の取り立てらしき怒号が飛び交うことがあった。

 首都高速5号線の東池袋ランプも近く、今思えば拳銃の試射だったのだろうか、ごくたまに深夜に発砲音らしき乾いた音が鳴り響くこともあった。

 やがてヤミ金屋さんたちの怒号は鳴り止んだ。廃業したのか、引っ越したのかはわからなかったが、すぐさま若い半グレのような連中が入居したようだった。

 やがて昼寝中には、上階から「オレオレ、お袋おれだよ。あの実はね…」という電話の声が頻繁に聞こえてくるようになった。当時はなんのことだか、さっぱり分からなかった。
(文=ヒロチカ)

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