またひとり去っていった輝かしいアイドルの記憶とともに BiS「BiSimulation」


 3月12日からスタートした「BiSimulation」のリリースイベントには、最近の私にしては多く参加した。握手会の際にプー・ルイに「明日も明後日も行くから!」と言ったら「驚異の出席率だ~」と笑われるほど行ったのだ、私にしては。そんな中、3月13日に公開されたのが、「BiSimulation」のカップリング「Hide out cut」のビデオ・クリップだった。

 

 
 「BiSimulation」の新衣装を着てからのライヴ映像やオフショットを編集したこの映像の演出は、これまでもBiSのビデオ・クリップを手掛けてきた浅井一仁。胸が苦しい。これを研究員以外が見たら何を感じるのかまったく想像ができない。ただ、この映像を繰り返し見るときの私は、ワッキーのBiS終盤の日々に苦しくなりながらも、このせつなさを甘露のように味わってしまう。浅井一仁は、プー・ルイとユッフィーが会話しているシーンを1秒も入れていない。それも含めて記録としてリアルすぎるのだ。

 この「Hide out cut」の発表までに、私たちはもうひとつの事件を経験していた。研究員からスタッフになった辻本翔マネージャーが辞めたというのだ。その彼の姿もまた「Hide out cut」には記録されている。ほんの数ヶ月前の光景なのに、「Hide out cut」にはすでに失われた光景ばかりが記録されているのだ。渡辺淳之介マネージャーが「JxSxK」名義で書いた英語の歌詞もさまざまな深読みを可能にしてしまう。この歌詞の中で去っていくのは誰なのだろうか? 「Hide out cut」は松隈ケンタ作編曲で、ピアノを導入しているのに加えて、ギター、ベース、ドラムが参加したほぼ生バンド編成のバックトラックだというのも重要だ。インストルメンタルだけでも聴き入ってしまう。

 「BiSimulation」のリリースイベントは、両国国技館の前日である3月15日にも渋谷Gladで開催された。インディーズ時代の「ウサギプラネット」や「YELL!!」を歌うセットリストに涙腺を刺激されたのは、脱退したユケのパートを、明日脱退するワッキーが歌っていたからだ。この日は、スタンディングの環境をフル活用したワッキーのファン「わっきゃー」の活躍も素晴らしく、何人ものわっきゃーが一斉に柵に上ってワッキーに捧げるMIXを打ち「抱いてやるよー!」と叫んで締めた。正直なところ、明日の両国国技館はこのGladを超えられるだろうかと心配になるほどの充実度だった。

 両国国技館では握手やチェキなどの「接触」が行われないため、3月15日がワッキーとの最後の接触となった。Gladの撤収時間までにチェキが終わらず、BiSの所属事務所である近くのつばさレコーズでチェキは続いた。つばさレコーズでチェキが再開されたのはすでに22時過ぎ。長いチェキの列が形成され、明日への負担を減らしたいという気持ちと、ワッキーと最後に話したいという気持ちとの葛藤の結果、私は最終的にチェキ撮影を選んでしまった。彼女はチェキの終わりに、女川に行けないことを自ら話し出した。それが最後の会話だ。まるで今生の別れのような気持ちになったが、アイドルとヲタはしょせんは別々の人生だ。そうなるかもしれない可能性を受け入れなくてはならない。

 かくして両国国技館の日は来た。国技館ならマス席だろうと2人分を買ったのだが、自分たちのスペースで自由にできるこの環境は非常に楽しかった。イス席だったアリーナでは、リフトされると同時に服を脱いでマワシだけになった研究員(即座に警備員に座席番号を控えられたらしい)、椅子の上に乗って怒られる研究員(『二度目はないぞ』と言われたらしい)などによる、研究員と警備員とのハードかつ馬鹿馬鹿しい攻防戦が展開され続けていた。ステージでは、のぞしゃんが普段ならシャウトする「IDOL」のパートで土俵入りの動作をして歓声が沸き起こる。

 今回はメインステージのほかセンターステージも用意されたのだが、その移動の際、メインステージの階段を下りるワッキーの両脇をメンバーが支えていることに衝撃を受けた。いや、昨夜のチェキ会もワッキーは椅子に座りながらだったが、両国ではすでに限界を超えた状態のなか彼女は踊り続けていたのだ。

 センターステージでは、「武道館までは泣かない」と宣言していたのぞしゃんがワッキーを前にして涙した。二丁ハロが振付を担当した「Hide out cut」は、かつてのBiSの楽曲の振付を細かく織り交ぜたものであり、さらに脱退するのにワッキーのソロパートも用意された、後先を考えていないものだ。いや、たしかにBiSは明日のことを考えながら見るようなグループではない。しかし、ではダンスの要であるワッキーが脱退した後はどうなるのか? 開催が発表された新メンバーオーディションは、どんなタイプのメンバーが加入するというのか……。アンコールの「Hide out cut」でノスタルジーを消費しているかのような背徳感を味わいつつそう考えていると、最後の最後の「レリビ」でメンバーがステージを下り、研究員も柵を飛び出して走り回り警備員とコントのような捕り物帳を展開。そしてプー・ルイは私のいるマス席まで走ってきたのだ。「あんた、本当にすげぇよ」と思いつつハイタッチして、駆け抜ける彼女を見送った。

 2階席は誰もおらず、会場はかつてスチャダラパーが「GET UP AND DANCE」でラップした「空席をのぞけばほぼ満員」を地で行く状態だったが、それでも公称4000人(終演直後は3000人だと渡辺淳之介マネージャーに言われたが翌日1000人増えていた)の動員は、2012年10月21日の赤坂BLITZの動員の倍以上であり、この短期間でこれほど動員を増やしたことのほうにむしろ驚いた。

 そして「WHO KiLLED IDOL?」というタイトルは、ちょっと洒落にはならない。さまざまな要因があるだろうが、ワッキーは脚を痛めて脱退することになった。本人はステージに立てないことを悔しがり、活動を続けたがったものの最終的には脱退することを選んだ。「BiSimulation」LIVE盤の初回限定盤は「初回仕様 初回限定ワッキーホンキーバイバーイ仕様 スペシャルブックレット付」という長い名前が付いているが、ワッキーの単独ジャケット、しかもブックレットもワッキーを中心にした写真集だ。BiSからはこれまでりなはむ、ユケというふたりが脱退してきたが、これほどの待遇で花道を飾られたメンバーはいなかった。それがまた、志半ばで脱退するワッキーへのはなむけのようでせつない。かつてユケは恵比寿リキッドルームでの脱退を望んだものの、「BiSのワンマンをユケのためのワンマンにはできない」と他のメンバーから反対され、りなはむ同様に下北沢シェルターで脱退した。しかし両国国技館は、疑いようもなくワッキーの脱退公演だった。

 この盛り上げ方は当然商業的な理由もあるだろう。とはいえ「WHO KiLLED IDOL?」というタイトルを反芻すると、ワッキーを追い込んだのは誰かと考えてしまう。それは遠くない未来での解散が約束された、BiSという刹那的なグループの宿命であり、それを応援する私たちもまた罪を抱え込むのだ。だからこそワッキーには、BiSでの1年弱の活動が良い思い出として残ってくれることを祈らずにはいられない。わっきゃーが用意した2000本もの白いサイリウムが降られたあの光景を思い出してくれることを。

 ある19歳の女の子の研究員になじられたことがある。「宗像さんは仕事も家もある、輝かしい未来の中にいるじゃないですか」と。そんなことは自分では考えたこともなかった。むしろ、「失われた10年」が「失われた20年」に延長されていき、「アベノミクス」なる言葉が新たなる信仰のように唱えられる現在まで、先行する世代の割を食ってきたと思い続けてきた。しかし、私たちの世代が団塊の世代の既得権益をうらめしく見るように、気付けば自分の世代が若者の世代から既得権益を得ていると見られていることに愕然としたのだ。私はただ毎日やるべきことをして生きている。しかし、それ以前に若者は夢を見ること自体が難しいのだと不意に現実を突き付けられた。

 ワッキーがオーディションに落ち続けたことはメジャーデビュー時の本誌のインタビューでも語られていたし(https://www.menscyzo.com/2012/07/post_4282.html)、やっと合格したBiSに加入したものの約1年弱で脱退することになった。脱退後は普通の女の子に戻り、脚を治し、卒業できなかった短大に通うという。BiS脱退後の彼女の日々に、何か希望がありますように。そう強く願う。

 「BiSimulation」はオリコンの週間ランキングで14位を記録した。Dorothy Little Happyとの「GET YOU」の初動と比べて、単独でも約1500枚しか違わない。2012年のメジャー・デビュー・シングル「PPCC」の初動に比べると、もはや2倍以上。なぜこれほど短期間で動員もセールスも伸ばしているのか、現場にいる私でもよくわからないのが実情だ。ワッキーの置き土産だと思うことにしよう。

 ワッキーことワキサカユリカは最後まで素晴らしかった。思い出すのは、2012年7月20日からの24時間イベントで突然バットを相手に会話を始めた瞬間だったりするのだけれど、そうしたわけのわからなさ、生真面目さ、ダンスの巧さもすべて含めて輝いていた。BiSを追いかける以上、過去を振り返る暇はないのだけれど、今は少しだけ許してほしいのだ。感傷に浸ることを、そしてワッキーの今後の日々が実り多きものであることを祈ることを。あなたは素晴らしいアイドルだった、と。

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