新潟で生まれ渋谷で夢を見る極上のアイドルポップス Negicco「愛のタワー・オブ・ラヴ」

neginegi0304.jpg※イメージ画像:Negicco「愛のタワー・オブ・ラヴ」T-Palette Records

 素晴らしい。そう単刀直入な書き出しをしてしまうほど、Negiccoのニュー・シングル「愛のタワー・オブ・ラヴ」は完璧なアイドルポップスだ。いや、「アイドル」の単語さえ省いてしまってかまわないかもしれない。

 新潟のローカルアイドルとして活動してきて、現在タワーレコードが主宰するアイドル専門レーベル・T-Palette Recordsに所属するNegicco。彼女たちに「愛のタワー・オブ・ラヴ」を提供したのは、これまでNegiccoを支えてきたconnieではなく、Nona Reevesの西寺郷太だ。彼が作詞、作曲、編曲、プロデュースを担当している。

 この人選にも驚いたが、さらに衝撃的だったのが楽曲だ。ミディアム寄りの楽曲にして、80年代的な感触のドラムエコー、細かく鳴り響くシンセベース、ストリングスの音色などが繊細に組み合わされているサウンド。コーラスワークも鮮やかだ。2分過ぎのドラム音の変化など、芸も細かい。そして西寺郷太ならではのソウルを吸収した美しいメロディー・ラインと、そこで歌声を響かせるNegicco。特に終盤の怒涛のような昂揚感には、さすが2000年に「LOVE TOGETHER」という傑作をNona Reevesで生んだ西寺郷太だと感じた。ギターもNona Reevesの奥田健介が参加しているし、ドラムの小松シゲルにも参加してほしかったところだが、プログラミングによる「愛のタワー・オブ・ラヴ」では冒頭のキックから完璧なのも事実だ。

 ひとつ気にするならば、訛りが可愛らしい「夢ってナンダロっかね・・・」という語りの部分以外、新潟らしい要素がほぼない点だろう。とはいえ、それ以外の部分では正直なところ賞賛しか出てこない。あえて西寺郷太を迎えたことで、次のフェーズに移った感が鮮烈だ。また、connieはカップリングの「パーティーについて。」を作詞、作曲、編曲、プロデュースしているが、「愛のタワー・オブ・ラヴ」の「ライフ・イズ・パーティ」という歌詞に呼応したかのような小粋なタイトルだ。

 発売後すぐに入手困難になった初回限定盤(6曲のライヴ映像を収録したDVD付き)は買えたものの、完全限定生産のアナログ7インチ盤「圧倒的なスタイル / ガッター! ガッター! ガッター!」を私は購入できなかった。ただ、このアナログに捧げられた元ピチカート・ファイヴの小西康陽の「そうか、ピチカート・ファイヴの音楽的後継者は彼女たちだったのか。」というコメントには驚いた。そう言われてみると、ピチカート・ファイヴの1992年の「SWEET PIZZICATO FIVE」あたりのサウンドとの共通項に気付かされるし、「パーティーについて。」のサウンドにも同様な感触がある。新潟で生まれて渋谷系へ、というのもちょっと冗談のような展開だけれど、そうした系譜の音楽の良質な部分が「愛のタワー・オブ・ラヴ」と「パーティーについて。」には確実にあるのだ。

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