【アイドル音楽評~私を生まれ変わらせてくれるアイドルを求めて~ 第42回】

濃い色彩で彩られた「最後の楽園」! Tomato n’ Pine「PS4U」

tomaps4u.jpg※イメージ画像:Tomato n’Pine『PS4U(初回生産限定盤、DVD付)』SMR

 Tomato n’ Pineのシングル群はこの連載でも紹介してきたことだし、それらを多く収録したアルバムは紹介する必要もないだろう、いまさら騒ぐのはシングルをスルーしてきた不勉強な連中だろう……と『PS4U』を聴く前は考えていた。そしてそれは完全な油断だった。YUI、WADA、HINAという現在のメンバーになってから初めてのアルバムが『PS4U』だ。

 新曲に関しては、冒頭の「Train Scatting」から、スキャットマン・ジョンという意表を突く大ネタだ。よくわからないがとにかくスキャットだ。「踊れカルナヴァル」は哀愁のラテン風味で、南米の国名や地名、サンバ、カリプソ、ブーガルーといった音楽ジャンルが歌詞に登場する。実際の南米度はリズムがサンバの「10月のインディアン」のほうが高く、「踊れカルナヴァル」は音楽的にはディスコ色が強いが、ヴィデオ・クリップにはサンバの女性ダンサーも登場する気合いの入れ方だ。ラテンの要素は「大事なラブレター」のリズムにも顔をのぞかせる。

 

 
 「ためいきはピンク」は、「なないろナミダ」「旅立ちトランスファー」といったメロディーとヴォーカルが美しい起伏を描く楽曲の系譜上にある。「そして寝る間もなくソリチュード(SNS)」は、エレキ・ギターが豪快にうなるロック・ナンバー。考えてみればこの手のサウンドはなかったので新鮮だ。

 既発曲では、ストリングスとブラセ・セクションの音色に彩られたソウルフルなディスコ・チューンの「ワナダンス!」、ストリングの配し方やリズム・セクションの骨格が美しい「キャプテンは君だ!」、冒頭のラップがユニークな「POP SONG 2 U」、ブリテッシュ・ポップ風味の「ジングルガール上位時代」もズラリと収録されている。壮観だ。PUFFYのカヴァー「渚にまつわるエトセトラ」も収められている。

 アルバム終盤がZONEのカヴァー「夢ノカケラ…」と「ワナダンス!-strike the pose remix-」なので、カタルシスが薄いことが残念ではあるが、その点以外は圧倒的なものすら感じさせる。agehaspringsの玉井健二がサウンド・プロデュースを担当している楽曲やサウンドはもちろん、アートワークも洗練されている。

 そしてTomato n’ Pineの歌詞は、TwitterやFacebookを歌った「そして寝る間もなくソリチュード(SNS)」のように実はかなりクセが強いのだが、ユーモアの込め方も含めて、玉井健二とジェーン・スーが本作でTomato n’ Pineに与えているキャラクターは秀逸だ。けっこうな度胸すら感じる。

 Tomato n’ Pineのような美少女3人に何を歌わせれば良いのかは、白いキャンバスを与えられて何を描くかを試されているようなものだ。『PS4U』を聴いて真に感心したのは、そうしたプロデュースの方向性だった。キャッチコピーには「最後の楽園へようこそ!」とあるが、これはスキャット、ラテン、ディスコ、ソウル、ロック、ラップとかなり濃い色彩で彩られた楽園だ。調香師の鮮やかな手さばきを眺めているかのような気分にもなった。

men's Pick Up