震災で揺れず紳助で揺れた明石家さんまの2011年

mansu_sanma1226.jpg※イメージ画像:『マンスリーよしもとPLUS 2011年 02月号』
ワニブックス

 震災というキーワードなしには語れない2011年。未曾有の大災害に見舞われ、大きな不幸に直面したこの国の人々にとって、今年を振り返るのに東日本大震災は決して無視できないことだろう。まして笑い飛ばすなど不可能なことだ。しかし、あの男だけはこれだけの不幸も笑いに変えようとする。明石家さんまである。

 被災地にいち早く飛び込み、私財を投げ打って救援物資を届けた江頭2:50や炊き出しを行った石原軍団など、多くの有名芸能人が被災地を訪れ、災害に見舞われた人々を勇気づけた。また、被災地に赴かないまでも、芸能人たちは東京や大阪で義捐金を募り、個人の貯金を寄付した。そんな中、明石家さんまは動かなかった。テレビバラエティーのトップに君臨するといっても過言ではない彼の震災に関連した活動といえば、フジテレビ系で放送された27時間テレビにおける東北ライブくらいだろう。

 もちろん彼が個人的に被災者支援を行っているかもしれないので、一概に「なにもしてない」とは言えない。彼がテレビ画面に映っているということだけで、勇気付けられているという人もいることだろう。10年連続で「好きな芸人」のNo.1に選ばれた(「日経エンタテイメント!」調べ)天真爛漫なお笑いモンスターにとっては、そういった不幸とはそもそも無縁だという指摘もできるだろう。しかし、それにしてもあの災害について、あまりにも触れなさ過ぎではないだろうか。

 先日放送された毎年クリスマスの恒例となっている『明石家サンタの史上最大のクリスマスプレゼントショー』(フジテレビ系)で、こんな象徴的なシーンがあった。

 この番組の主旨は、今更言うまでもなく「今年起きた不幸を笑い飛ばし、豪華な賞品をゲットしよう」というもの。2011年、投稿者として電話に出た38歳の一般女性は、「主人がなでしこJAPANの活躍を見にドイツに行ったきり帰ってこない」と今年の不幸を話した。事件性すら感じさせる内容に絶句するさんまと八木亜希子。このあまりにも深刻な不幸話に、さんまは鐘を鳴らさなかった。番組を視聴したことのある読者なら分かるだろうが、こういったことは毎年のようにあることといえる。記者がさんまの頑なな姿勢を見たと思ったのは、その前段である。

 番組では、電話に出た相手に対し、さんまが名前と住居を聞くのが恒例となっている。このときも同じだった。ただ、その一般女性は「東北です」と答えているのだ。それに対しさんまは何も反応がなかったのだ。一般の人なら、「今年は大変でしたね」や「被害は大丈夫ですか」と聞くのが普通だろう。それが2011年を振り返る上での東北地方に対する通常の感覚といえる。しかし、さんまはまったく触れない。それが信念なのか、ただ単に忘れていただけなのかは分からないが、とにかく触れない。やはりさんまは、いつでもどんなときでも明石家さんまという芸人なのだろう。未曾有の大災害などでも彼のお笑いに対する姿勢は崩れないということだ。

 だが、そんなさんまにとっても2011年は大きく心が揺れた年だったのは違いない。もちろんその原因は、同じ事務所に所属し同期である島田紳助の引退だ。

 紳助が突然の引退を発表する一カ月ほど前、さんまはテレビ番組の中で「60歳くらいで引退する」という旨の発言をしている。これがどういった意味なのか、本当のところは分からないが、当時の記者にはどこか本音のように聞こえた。テレビのスターであっても、元をただせば彼が舞台出身の芸人であるということから、そろそろメディアでの仕事を減らし、観客と直に触れ合うことを欲しているのではないかと思ったからだ。若手に席を譲るという思いもあっただろう。しかし、紳助の引退後、彼の活躍に「引退」を仄めかすものはない。むしろ、さらに活躍の場を広げようとしているようだ。前述の『明石家サンタ』でも、「来年につなげるためにも、自分が面白いということをアピールしないといけない」という主旨の発言をしている。世界中に嘲笑されたとして話題になったクラブワールドカップのメッシ騒動の真意も、さんまが「自分にしかできないこと」と意気込み過ぎただけだろう。

 さんまは、紳助の引退で自分の役割を再認識したのかもしれない。そしてその認識が、より強い「笑い至上主義」に変わり、番組への投稿者が東北地方の在住者であっても見舞いの言葉ひとつかけないという態度をとらせているのではないか。ともすれば不謹慎とも取れるさんまの態度だが、そこは天性の愛嬌をもった芸人である。彼の根っからの明るさはそんな非難をものともしない。今年もやはり彼は明石家さんまであったということだ。そして、紳助の引退を受けた来年はもっとより強力な明石家さんまになるに違いない。

(文=峯尾/http://mineoneo.exblog.jp/
著書『松本人志は夏目漱石である!』(宝島社新書)

『さんまのまんま ~永遠のスター編~ VOL.4』

 
さんまさんの心境やいかに?

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