【アイドル音楽評~私を生まれ変わらせてくれるアイドルを求めて~ 第33回】

福岡の地元産業密着型アイドルは全国で成功できるか!? LinQ「ハジメマシテ」

aidol_33_1030.jpg※画像は「ハジメマシテ」より

 「アイドル戦国時代」というバズワードが流行してから有象無象がアイドル業界に参入してきた……という嘆きはこの連載でさんざん書いてきたが、それでも良貨が悪貨を駆逐することへの一抹の希望を私は捨てていない。そんな希望を抱かせてくれるのが福岡のLinQだ。

 2011年10月21日に放送されたNHK『特報フロンティア』はある意味で身も蓋もない番組だった。福岡でLinQが立ち上げられた理由として、「不況でも活気を見せるアイドル市場にビジネスチャンスを見い出した」とナレーターが紹介してしまっていたのだから。

 しかし、LinQを追ったこの番組をそれでも見続けたのには理由がある。LinQを立ち上げたJMPの小野純史社長が、衣装デザインを専門学校の授業の一環にしてもらい、衣装の腰の帯の博多織を織元から提供してもらい、LinQをハンバーガー屋の広告キャラクターにしてもらえないかと相談に行く。その徹底した地元産業との関わりぶりに、LinQの公式サイトにあった多数の地元企業のバナーにも納得がいった。その一方で、iPhoneアプリ「LinQしようよ☆」も配信されており、しっかり有料課金のオプションもある。

 番組でも紹介されていたように、楽曲面では東京で活動してきた地元出身のアーティストが参加している。プロデューサーは、長崎県佐世保市出身で、中島美嘉の「愛してる」の作詞・作曲で知られるH(eichi)だ。LinQのファースト・シングル「ハジメマシテ」は、H(eichi)が作詞し、福岡で活動するSHiNTAが作編曲を担当している。

 タイトル曲「ハジメマシテ」をここで取り上げる理由は、そのソウルフルなサウンド・プロダクションに他ならない。メロディー・ラインの良さに加えて、ブラス・セクションやオルガンの音色、エレキ・ギターやベースのフレーズなどが一丸となってユニゾンのヴォーカルを引き立てる。しかも中盤の間奏はかなりの昂揚感をもたらすのだ。コールのような「ハジメマシテ」というフレーズの挿入も、適度なアイドルっぽさを加えていて良い。歌詞に「西鉄バス」が何度も出てくるのも、これでもかというほどご当地感を出している。最後のドラムの音まで考え抜かれたトラックだ。

 カップリングの「for you」と「なう。」はプログラミング主体の楽曲なのだが、他のアイドルとの差別化を意識して「ハジメマシテ」のような路線を進んでほしいところだ。

 LinQはすでに、生粋のアイドルヲタとして知られるタワーレコードの嶺脇育夫社長が設立したレーベル・T-Palette Recordsから2011年11月9日に「カロリーなんて / きもち / 手をつないで」をリリースすることも決定している。ただ、「カロリーなんて」も打ち込み路線なので、いつかまた「ハジメマシテ」のようなソウル路線の楽曲もリリースしてくれないかと願う次第だ。とにかくこういうサウンドのアイドルは少ないし、現れても終わってしまうのだ。

 T-Palette Recordsのレーベル・メイトである新潟のNegiccoのほか、仙台のDorothy Little Happy、愛媛のひめキュンフルーツ缶など、地方にも注目すべきアイドルは多い。そしてLinQにとっては、同じ福岡にRev. From DVLがおり、さらに秋元康プロデュースによるHKT48も誕生した。地元の福岡でも全国規模でも、パイの奪い合いというべき厳しい争いが待っている。

 先週は、アイドルポップスに精通しているDJ O-ant a.k.a アーリーのプレイを2回聴いたのだが、2回ともLinQの「ハジメマシテ」が流されていた。そのうち1度は、「レプリカプリコ」の全国流通が叶わないまま活動を休止してしまったエレクトリックリボンのライヴが行われた10月25日のイベント。そんなせつなさを抱えた場で、フロアに響くLinQの「ハジメマシテ」で踊ったことは、しばらく忘れられないだろう。

「ハジメマシテ」

 
地方発アイドルはどこまで行ける?

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