俳優? それとも芸人? 大泉洋の正体を暴くでしょう

 自身3作目となる主演映画『探偵はBarにいる』(東映)の公開を今月10日に控え、近頃テレビで大泉洋の姿を見かける。そんなとき大泉はどこか俳優然としている。もちろん、多くのテレビ出演が映画の宣伝を目的としいるわけで、何もおかしいことはない。ただ、全国的にブレークする前の北海道時代の彼を知っているファンからすると、そんな凛々しい彼に少し違和感を覚えるのではないか。『水曜どうでしょう』(北海道テレビ)の全盛だったころを北海道で過ごしていた記者には、どうしてもそんな気がしてならない。

「03年からDVDでリリースされた『水曜どうでしょう』の全国的大ヒットは、前代未聞の出来事でした。なにせ、いちローカルバラエティが、オリコンの全国DVD販売ランキングで1位を獲得したわけですからね。業界史に残る一大事と言っても過言ではないですよ。大泉洋というタレントは、その衝撃をきっかけに世に出たわけですが、2005年の『救命病棟24時』(フジテレビ系)以降、数多くの連ドラに出演したため、今では彼を俳優として認識している人も多いでしょう。特に、彼のローカルタレント時代を知らない視聴者は三枚目の役者だと思っていることでしょうね」(業界関係者)

 1996年10月に放送を開始した『水曜どうでしょう』は、当時学生だった大泉洋という素人半分のタレントが才能を開花するに及び人気に火をつけた。

 放送開始当初、口数の少なかった大泉は、番組の企画が旅ものに一本化されるにつれ、次第に天然の要素を色濃く見せ始める。たとえば、カブで日本縦断をする企画、彼は東北の峠道でいきなりウィリーして転倒し、どうでしょう史上に残る名場面を演出し、ヘリコプターで観光する企画では急にしゃべらなくなりゲロを吐く。しかしその一方で、ドライブ中の雑談でたまたまキャラクターを見つけると、嘘八百の語り口を無理やりねじ込み爆笑を生むアドリブ力を見せる。6年半あまり続いた『どうでしょう』で、次第にあらわにされた大泉洋とは、天然でありながら妙に話芸の優れた愛すべきタレントだった。

 だが、そんな大泉も、北海道の芸能事務所に見出されテレビ出演を果たしたきっかけは、地元の劇団に所属していたことだった。その経緯を踏まえると、彼の本来の志望は俳優だったと推察できる。しかし、『どうでしょう』で花開いた彼の才能は、そのイジられる様子や無邪気なリアクションから、俳優のものとは一線を画すものと言える。だが、そんな大泉も『どうでしょう』のいち企画として放映されたドラマでは、持ち前の器用さと劇団員の経験から俳優としての片鱗を見せた。

 その後、『どうでしょう』のDVDが全国的なヒットを飛ばした彼は、主に俳優として活躍の場を広げる。『どうでしょう』時代を知っているファンからすれば、当然お笑いタレントとしても全国的な人気を博すだろうと期待されたが、実際は違った。現在のテレビバラエティーが、芸人同士の掛け合いを主軸に成り立っているという点を考えれば、いきなり大泉という得体の知れない芸人がその輪に入ることは難しいだろう。やはり彼が全国的なブレークを果たすには、役者としての道しかなかったと言える。

 自身で作詞作曲を手がけた歌を歌い、スープカレーブームの火付け役を担い、50以上のレパートリーがあるというモノマネもこなす大泉は、『千と千尋の神隠し』(東宝)や『茄子 アンダルシアの夏』(アスミック・エースエンタテインメント)などで声優としての実力も見せ付ける。もちろん多くの出演映画やドラマなどからも、彼の役者としての才能は誰もが認めるところだろう。だが、そんな彼の最大の魅力は、やはりにじみ出る人柄の良さであり、誰からも愛されるキャラクターと言える。
 
 たとえば、昨年長期療養をしたナインティナインの岡村隆史に、入院の勧めをしたのが大泉だというから、その深い信頼関係は仕事の付き合いを超えたものだと言えるだろう。芸能人との交遊がほとんどないことで知られている岡村の心をつかんだ大泉には、やはりそれだけ人に信頼される人柄があるのだろう。

 『どうでしょう』で見せる破天荒な天然ぶりや秀逸なアドリブは、大泉洋が天性のコメディアンであることを証明している。そして仕事を超えた多くの芸能人との深い交遊関係は、彼が誰からも愛される存在であることを示している。そしてそんな類い稀な才能を持った人物と言えば、往年の喜劇役者・森繁久彌の名が浮かぶ。テレビバラエティーの隆盛で、ひっそりと存在価値を失っていた喜劇役者。芸人とも俳優とも言い切れない大泉洋は、生粋の喜劇役者と言えるのかもしれない。

(文=峯尾/http://mineoneo.exblog.jp/
著書『松本人志は夏目漱石である!』(宝島社新書)

『水曜どうでしょう 第15弾 アメリカ合衆国横断』

 
一生どうでしょうしていただきたい!

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