【アイドル音楽評~私を生まれ変わらせてくれるアイドルを求めて~ 第32回】

「アイドルっぽい音」から大胆に逸脱していくTomato n’Pine「なないろ☆ナミダ」

 Tomato n’PineのCDでハズレという作品を手にした経験がないのだが、8月17日に発売されたニュー・シングル「なないろ☆ナミダ」はもはや全トラックの完成度が高過ぎた。サウンド・プロデュースを手掛けるagehaspringsの玉井健二の度量を再確認させられる。agehaspringsは多数の大物アーティストを手掛けるチームで、最近のアイドルでは9nineの「夏 wanna say love U」も彼らの仕事だ。

 YUI(小池唯)、WADA(和田えりか)、HINA(草野日菜子)という現在の編成になったTomato n’Pineを初めて見てからもう1年が経つか……と気付いたのは、8月22日にUSTREAMで放映された「Tomapai Channel Vol.8『なないろ☆ナミダ』リリース記念スペシャル放送」で、そうした主旨の発言があったからだ。たしかに「TOKYO IDOL FESTIVAL 2010」で彼女たちを初めて見たのは2010年8月8日のこと。同行した女友達が「小池唯を見たい」というので前の方で見たのだが、踊るというよりはユラユラと揺れているかのようなTomato n’Pineの姿に、逆に興奮してしまったことを思い出す。

 「なないろ☆ナミダ」は、その時歌われたPUFFYの「渚にまつわるエトセトラ」のカヴァーも遂に収録。タイトル・ナンバーの「なないろ☆ナミダ」は、前作であるメジャー・デビュー・シングル「旅立ちトランスファー」と同系統のしっとりしたナンバーだが、感情の揺らぎと夏の訪れを歌う切ない歌詞とメロディー・ラインが、3人の声質の魅力を引き出していて秀逸だ。

 「渚にまつわるエトセトラ」は、井上陽水作詞、奥田民生作曲によるPUFFYの大ヒット曲。Tomato n’Pineのカヴァーでは、ストリングスの音色と太い低音を核としたサウンド、そしてPUFFYよりも丁寧に歌う3人のヴォーカルが特徴的だ。「渚にまつわるエトセトラ」を歌うTomato n’Pineを見ているだけで気が触れそうになった1年前の夏を思い出す。

 そしてこのCDの最大の問題作は、3曲目に収録された「FAB (Free As a Bird)」だ。Stock Aitken WatermanによるPWLから生み出された1980年代後半の大ヒット曲群を彷彿とさせるハイエナジーなサウンドなのである。Tomato n’Pineは、ともすれば3人とも品が良くて無色透明のイメージになりそうだが、そこにこんな酔狂なサウンドをブチ込んでくるスナイパーぶりには強烈に感銘を受けた。編曲はagehaspringsの釣俊輔とonetrapのDeLa★。Twitterのタイムラインを眺めていると、何人もがこのサウンドの元ネタを探しては挙げていた。それほど鮮烈だ。「Oh!」の代わりに「王!」が多用される歌詞も振り切れており、ラップ・パートへも豪快に展開していく。

 「旅立ちトランスファー -Supersonic Hydro Guitar Remix-」はagehaspringsの飛内将大によるリミックスで、エレキ・ギターが唸るダンス・エレクトロに変貌。こうしてみると、1曲目から次第にいわゆる「アイドルっぽい音」から大胆に逸脱していく構成とも解釈できる。

 Tomato n’PineのプロデュースをしているのはagehaspringsとJane Su。ジャケットやビデオ・クリップで使われているカラフルなキャンディーに象徴される、パッケージとしてのトータルなクオリティの高さも特筆したい。

 小池唯が表紙とグラビアを飾った「ヤングマガジン」がコンビニや書店に並んだ先週、Tomato n’Pineの「なないろ☆ナミダ」はオリコンのシングル週間ランキングで39位を記録した。3月9日にリリースされたものの2日後に東日本大震災が発生してプロモーションが困難だった「旅立ちトランスファー」の同66位の雪辱を晴らした形だ。

 しかし、「なないろ☆ナミダ」の収録曲のクオリティー、そしてそこに込められたクリエイティヴィティーを考えれば、もっと多くの人に聴かれるべき作品だ。そして、「WADAちゃん」こと和田えりかの可愛らしさに最近どうしても目が行ってしまうことも、どさくさにまぎれて告白しておこう。「なないろ☆ナミダ」収録曲がYouTubeの公式チャンネルにないので、インディーズ時代の楽曲のビデオ・クリップを最後に貼っておく。WADAちゃんやっぱり可愛いな……。

「なないろ☆ナミダ(初回生産限定盤)(DVD付)」

 
かわいさにむせび泣く!

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