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◆さすらいの傍聴人が見た【女のY字路】 特別編 第9回

合言葉は「ボディーを透明にする」 映画より怖い埼玉愛犬家連続殺人事件


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※画像は映画ポスター『冷たい熱帯魚 』より

 今年初めに公開された『冷たい熱帯魚』(監督・園子温/配給・日活)は、遺体を解体するシーンのグロテスクぶりや殺人鬼役でんでんの怪演などが話題になったが、この映画は実際に起きたいくつかの事件をモデルとしている。その一つが1993年に埼玉県で発生した「愛犬家連続殺人事件」だ。

 映画では熱帯魚販売店を舞台としているが、本来の事件はペットショップ「アフリカケンネル」とその経営者である関根元、元妻である風間博子が、舞台であり主役である。映画で、嫌々ながらも事件に手を貸すハメになった、吹越満演じる社本に相当する人間も実在し、その男が事件を語るという体の書籍『愛犬家連続殺人』は、関連書籍の中では群を抜いた迫力と情報量で他を凌駕しており、もはや唯一の参考書と言え、事件マニアの間では通称"赤本"とも呼ばれている。これに収録されている当時の関根の、ウソを交えた発言の数々は、残虐な事件本でありながらもその荒唐無稽さに思わず噴き出すほどだ。

 さて事件の触りであるが、アフリカケンネルの経営に行き詰まった関根は当時、達者な口を生かした詐欺的な商売を行っていた。1人目の被害者は、「つがいで買うと1,100万円だ」と外国犬(ローデシアン・リッジバック)を買わされたが、後に実際の相場を知人から聞かされ、代金返還を要求したところで殺害された。関根の殺害方法は一貫しており、犬の殺処分用の薬品である硝酸ストリキニーネを使うことで知られている。「栄養剤だ」などと言って飲ませたり、栄養ドリンクに入れて飲ませたりするのだ。

 だが、殺害しても終わらない。関根にはポリシーがある。「ボディーを透明にする」のだ。遺体が残っていればアシがつく、それを避けるためには遺体を消す必要がある。として、遺体を群馬のトレーラーハウスでバラバラにし、肉は細かく刻んでサイコロステーキ状にして川に流し、骨はドラム缶で焼いた。

 結局この被害者のほか合計4件の殺人・死体損壊・死体遺棄罪で二人は逮捕された。関根の読み通り、ボディーは透明になっているので物証はほとんどない。そのため、嫌々ながら共犯者にさせられていた、トレーラーハウスの持ち主でありアフリカケンネルの役員でもあったYの供述を基に事件は立証された(Yの話がどこまで真実なのかは疑問の残るところであるが)。

 一審は浦和地裁(現・さいたま地裁)で行われ、元夫婦は互いが互いに「あいつが主犯だ」という主張をしたものの、裁判所は二人が対等な立場であったことを認定し、2001年3月、死刑を言い渡した。関根の虚言癖は裁判所も認めており、「『アフリカでライオンと向かい合ったことも何度もある』『アラスカに行って8年間1人で暮らし、クマやオオカミなどを身近に見ながら生きた』などととてつもないウソを振りまき」などと断罪されている。二人とも控訴したがあっけなく棄却、そして上告も棄却され、09年6月には死刑が確定した。上告審では関根の弁護人が「今生きている人の命を人為的に奪うことは問題」と、死刑制度そのものに疑問を投げ掛けていたと思えば、「Yの公判態度はふらちで、ウソをついているに違いない」とYを非難し、また風間の弁護人は「風間さんは関根と結婚するまで犯罪とは無縁であり、どんな犬でも素晴らしい犬に仕立てるブリーダーだった。人を殺せるような人間ではない」とその仕事ぶりをアピールしていた。判決言い渡し終了後は法廷で支援者が「博子さんはやっていません!」と叫ぶ場面も。

 筆者が関根と風間の姿を見たのは、東京高裁での控訴審判決だ。これが最初で最後である(上告審では被告人が出廷しないので、被告人が法廷に出てくるのは控訴審まで)。風間はペイズリー柄の茶系ワンピースで、被告人にしてはおしゃれをしているという印象。そして関根は、ハゲ気味の頭に上下スエット姿、背筋を曲げて座っており、これがあの事件の......と拍子抜けするような"どこにでも居るオジさん"だった。古い言葉でいえば、ひょうきんさが漂う田舎の人間のようでもある。むしろこの親しみやすい雰囲気が、警戒心を薄れさせるのだろう。

 数年前に、この事件の現場跡地をめぐってきたことがある。かつての「アフリカケンネル」は駐車場になっており、犬を繁殖していたという「繁殖場」は雑草だらけ。そこには関根がいつも吸っていたタバコの空き箱が一つと、好きだったという栄養ドリンクの瓶が散乱していた。そして壁には「今日できることは、今日 すぐやれ」と太く書かれた紙が張られたまま、黄ばんでいた。

 この事件にまつわる噂はいくつかあり、4件のほかにも関根の周りには行方不明者が居るという話や、共犯のYが検察と密約を交わしたのではないかという話が有名だが、いずれも真偽が明らかになっていない。凶悪な犯行態様、関根と風間のキャラクターだけでなく、多数残された謎も、いまだにこの事件に引き付けられる人が多い理由かもしれない。

高橋ユキ(たかはし・ゆき)
裁判所で出会った面々と、女だけの傍聴グループ「霞っ子クラブ」を結成し、ブログ「霞っ子クラブの裁判傍聴記」を開設(現在は閉鎖)。書籍は『霞っ子クラブ~娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)ほか、『あなたが猟奇殺人犯を裁く日』(扶桑社新書)など。好きな食べ物は氷。

『冷たい熱帯魚』


夜の街に生きる女と男が織りなす物語

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