お笑い帝国の崩壊も......

中堅以上大御所未満の明暗くっきり!! 2010芸人出世事情

geinin1220_01.jpg画像は左上から時計回りに『チュートリアリズムⅢ』『マヨブラジオ presents ブラックマヨネーズ 吉田VS小杉 意地のガチンコマッチ』
『アンタッチャブル山崎弘也の休日inリビア』『爆笑オンエアバトル タカアンドトシ』

 今年ブレイクした有名人として、真っ先に思い浮かぶのは、マツコ・デラックスや渡部陽一、池上彰といった文化人系のタレントだが、例年通り若手芸人も多くブレイクした一年だった。代表的な名前を挙げれば、なぞかけブームで一躍ブレイクした「ねづっちです!」のWコロンやコントに定評のあるピースなどが浮かぶ。その他にも、昨年からの活躍から考えればブレイクといって差し支えない野生爆弾やサバンナ、手相占いの島田秀平など、飛躍した芸人は数多い。

 ただ、12月半ばにオリコンが発表した「2010年タレント番組出演本数」でNo.1に輝いたのはオードリーだった。総出演番組は500本を越え、文字通り目にしない日はない活躍振りだった。09年には「もっともブレイクした若手芸人」に選ばれ、移り変わりの激しい芸能界で、翌年にこの活躍は驚異的なものだと言えるだろう。

 そんなオードリーの目覚しい定着振りもさることながら、大いに安定した力を見せつけたのが、大御所たちの活躍だ。前述したオリコン発表のランキングでは、並み居る若手を抑えて、帯番組をこなさないビートたけしがトップ20にランクインし、その他、タモリ、さんま、紳助などの大物もレギュラー番組が増えることも減ることもなく、各局の顔として活躍した。そんな彼らに続く芸歴25年以上のダウンタウンやとんねるずも安定した内容だったと言えるが、明暗の分かれた世代と言えば、80年代後半にデビューした、大物とも呼べず若手とも呼べない中堅芸人たちだった。

「今年ブレイクといっては語弊があると思いますが、ここ数年の、さまぁ~ずさん、くりぃむしちゅーさん、雨上がり決死隊さんらの、いわゆるミドル3の活躍は目を見張るものがあります。当然今年も順調な活躍でした。しかも彼らは局ごとにきっちりとした棲み分けを見せ、自分の看板番組を大事にし、過剰な露出で視聴者を飽きさせることはありません。若干、くりぃむの上田さんがスポーツニュース番組のキャスターに進出するなど芸人以上の活躍を見せていますが、それも一時のウンチクブームのおかげか文化人的なイメージがありますから、あまりイヤミにならずに済んでいます」(芸能ライター)

 また別の番組制作関係者は中堅芸人の位置づけをこう分析する。

「まず第一にギャラの問題があります。中堅芸人といってもすでに芸歴20年以上のベテランですから、他の若手のような金額は難しい。大物タレントほどではないにしろ、数人集まればあっという間に大御所ひとり分以上のギャラになってしまいます。それゆえ、たとえば、大御所タレントをメインMCに据えた番組の場合、出演できる中堅芸人はよくて1人か2人でしょう。そもそも番組制作側としても、そういった人たちに若手のような仕事を求めるのは酷だと思ってますし、何より若手の人材は豊富なので、中堅芸人はそれほど多くは必要ありません。必要なのは、若手の暴走を制止でき、どんな空気でも笑いに変えられる中堅芸人1人なのです」(番組制作関係者)

 ”MCに信頼されている中堅芸人”とは、島田紳助にとっての東野幸治、所ジョージにとっての清水圭、ビートたけしにとってのガダルカナル・タカや水道橋博士といったところだろう。だが、前述したように、昨今のミドル3の大御所的活躍を踏まえれば当然中堅芸人という枠組みも変化してくる。昨年までは完全な若手としてくくられていたが、今年の活躍を見ればすでに中堅と位置づけても差し支えないようなコンビも出てきた。そしてその代表的なコンビが、チュートリアルとブラックマヨネーズの2組だ。

 ともに紳助、さんまに可愛がられ、彼らがメインを務める番組に出演し、それぞれゴールデンでのレギュラーも持っている現状を考えれば、彼らを若手と呼ぶのは難しい。若手からイチ抜けで中堅の仲間入りを果たしたコンビと言っていいだろう。

 チュートもブラマヨも芸歴は今年で13年目。芸人飽和状態の今の芸能界ではまだまだ若手の部類だが、彼らの活躍は若手芸人の域を越えている。だが、そんな大車輪の活躍を見せる彼らにも、別の番組関係者は苦言を呈す。

「確かにチュートリアルもブラックマヨネーズも最近の若手としては珍しく勢いのある芸人ですが、彼ら以上に貫禄のある活躍を見せているのが、タカアンドトシでしょう。彼らの人気は世代を越えてのものですから、これからもますます活躍の場を広げていくでしょう。タカトシは北海道出身で、2人とも何処か愛嬌のある顔をしていて、お茶の間の人気は高いです。最近の彼らの人気や、アンタ山崎の活躍を見れば、一時のお笑い=関西=吉本という図式もそろそろ視聴者に飽きられてきたと言ってもいいかもしれません。特に今の大御所芸人に続く人材を考えたとき、それは如実に現れるんではないでしょうか。彼らに続くのは、さまぁ~ず、くりぃむしちゅー、そしてタカトシやアンタッチャブルといった面々でしょう」

 お笑い帝国の崩壊を予言するのみならず、「今年の吉本中堅芸人の活躍がそれを物語っている」という。

「今田さんや木村さん、そして東野さんたちの活躍が極端に少なかったのが今年の特徴です。彼らはすでに一世を風靡した芸人で、若手からの信頼も厚く、実力も折り紙つきですが、返ってそれがアダとなり、周囲が彼らに気を遣って、彼らの仕事を選り好みしているのでしょう。メディアでの露出が少ないのはそれが原因だと思います。それでもテレビに出るだけが芸人の仕事ではないので、彼らがそういう道を選んだということなのでしょうが、その結果、彼らが大御所芸人たちの跡を継ぐのは難しくなりました。しかし、この結果も在京の番組制作会社と関西勢タレントの折り合いがうまくつかなかったことを証明している1つの事実かもしれません。つまり在京の制作会社は、彼らではなく、在京事務所に所属するタレントを選んだということです」(前同)

 全国放送の番組を制作する会社のほとんどが東京にある。逆に言えば、東京で制作される番組はイコール全国で放送される。前出のテレビ局関係者はこの点について、関西圏の笑いが恒久的に全国で活躍するのは難しいのではないかと指摘する。

「笑いの文化が長く根付いている関西には独自の土壌があります。その土壌は、全国と直結する東京とは格段に劣るものであっても、他の地域に比べればそれなりに豊かとも言えます。なんせ大阪は日本で東京に次ぐ大都会ですからね。そこでの活躍は有意義なものなのと言えるわけです。そういう理由もあって、晴れて東京進出を果たした関西出身の芸人が大阪に凱旋して再度活躍するという現象が起こるのです。古くはハイヒールやトミーズ、最近ではたむらけんじなどがそういった例でしょう。彼らに全国的な活躍は見られませんが、今でも関西に行けば第一線の活躍をしています。関西の芸人には帰るところがあるわけで、よっぽどの人気が出て、全国的に受け入れられないと、継続的に東京で活躍するのは難しいというわけです。そして継続的な活躍をするには、在京の制作会社やテレビ局とうまくやっていかなければならない。つまりそこで関西人と関東人の気質の違いを乗り越えなければならないということです」(前出)

 そもそも関西人の笑いの質は全国的に見ても特異だ。すでにそれがスタンダードになったという感もあるが、それはまだまだ笑いの面だけなのかもしれない。前出のライターが言うように、芸人飽和状態の今の現状では、制作会社と芸人の間にも強い人間関係が必要なのだろう。それを怠ったのが、今年あまり活躍できなかった今田や木村といった芸人たちなのかもしれない。

 古くから東京に事務所を構える大手のプロダクションと違って、吉本は東京に進出して間もない。いくら圧倒的な実力を持つ芸人を大勢誇っても、そう簡単に会社同士の絆が深まることもないだろう。吉本所属のタレントはつまりそれだけでハンディを背負っていると言える。だからガムシャラにもなる。あの関西独特だと思っていたハングリーさの滲み出た笑いへの姿勢にはそういった秘密があるのかもしれない。
 
 業界でよく耳にする吉本芸人の結束の強さは、裏を返せば単なる意固地とも取れる。先輩後輩を大切にするのはいいことだろうが、それだけに終始していては、いつか吉本は孤立してしまう。来年以降、全国的な活躍を目指す吉本や関西出身の芸人に求められているのは、少しだけ控え目で、スタッフ受けのいい態度なのかもしれない。

(文=峯尾/http://mineoneo.exblog.jp/
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