発覚している事件はごく一部とも

知的障害者をターゲットにする鬼畜色情魔

417AM71N76L._SS500_.jpg*イメージ画像:『精神障害者の事件と犯罪』著:滝沢武久/中央法規出版

 7月26日、大阪府南部に住む20代の知的障害者の女性が、共同作業所に通うために利用していた路線バスの車内で、3カ月にもわたって同じ男からわいせつな行為を受けていたことが分かった。府警はこの男、住所不定の無職、古木和雄被告(39)をわいせつ容疑で逮捕し、「今年6月24日午前、堺市内を走行中のバスの車内で女性の体を触った」という準強制わいせつ罪で起訴した。

 古木被告は女性が作業所と自宅を往復する際のバスに乗り合わせ、わいせつな行為を繰り返していた。車内のほかの乗客や乗務員は犯行に気づかなかったという。

「昨年10月にバス停で女性を見かけ、知的障害者と分かったので、今年3月ごろからわいせつな行為を繰り返した。わいせつな行為をしても嫌がらないだろうと思った。2年ほど前に離婚し、性的欲求が高まっていた。」

 と古木被告は供述している。

 さらに、被告は女性を別の場所に誘い出し、服を脱がせて乱暴しようとしたこと、「家賃が足りないから金を貸してくれ」と言って女性から複数回にわたって計数十万円を受け取っていたことも認めており、府警は詳しい状況や金額を調べている。

 知的障害を含む、何らかの発達障害を持つ人の場合、「性のことについて何も分かっていないから」「誰にもしゃべらないだろうから」といった理由で、悪意のある人間や小児性愛者から性的虐待、性的暴行の対象にされてしまうことが多い傾向にある。そして恐ろしいことに、性的虐待や暴行の加害者になるのは通りすがりの第三者や性犯罪の常習者ではなく、多くの場合家族や親戚、友人や知人、施設職員やヘルパー、ボランティアなど本人にとって身近な存在なのだという。とくに、加害者が被害者の教師であったり、雇用主であったりする場合は周囲の人に状況が伝わりづらく、虐待や暴行が慢性的に行われ、事態が取り返しのつかないほど深刻になってからでなければ発覚しないケースも多い。

 1996年に発覚したいわゆる「水戸事件」は、その虐待内容の悲惨さに加え、行政の対応のひどさで社会的な大問題にまでなった。

 茨城県水戸市にあるダンボール加工会社「アカス紙器」は、知的障害者を雇用することで雇用助成金を受け取り、茨城県や水戸市から「福祉企業」として奨励されていた。しかし、社長の赤須正夫は働いていた20数名の「知的障害」を持つ従業員に対して、日常的に殴る・蹴るの暴行や性的暴行、そして「こいつらは国が認めたバカだ」などの言葉による暴力を繰り返していた。社員は家族と離れ社員寮に住んでいたために、発覚が遅れた。被害者と家族は虐待の事実20件あまりを水戸警察署と水戸地検に告訴・告発したが、そのうち起訴されたのは雇用助成金詐取(詐欺罪)と暴行2件、障害1件で、その他の件については、

「知的障害者の供述は日時の特定があいまいで細部にわたる供述ができない」

 という理由で嫌疑不十分として立件しなかった。起訴された3件についても「被告は障害者雇用に熱心に取り組んだ」などの情状理由で執行猶予つきの判決が下された。被害者家族の心中は察するにあまりある。今回の事件と同様に、少しでも自立するために社会へ出て労働をする、そうした機会を悪意ある人間に利用されたのだ。

 しかし逆に、発達障害者が加害者となるケースもある。小児への強制わいせつや強姦事件の受刑者には知的障害者が比較的多く、犯行の動機も「かわいかったから」「遊んでいたかっただけ」など、自分で十分に説明できない者もいるという。実際、04年の調査では性犯罪以外でも、懲役刑を受けている受刑者の22%はIQ69以下の知的障害者であることが判明している。

 障害者が性の自立を獲得するのには、周囲の理解と非常な協力が必要であり、日本ではその方法論も今まであまり大きな声で語られることはなかった。しかし、性被害に遭わないため、また加害者にならないためには、性教育の理論や技法、ケーススタディを蓄積していくことが不可欠であろう。

『『精神障害者の犯罪』を考える』著:山口幸博/鳥影社

 
少年犯罪と精神障害の問題

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