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◆さすらいの傍聴人が見た【女のY字路】第6回

男の奴隷となり、家族を手にかけた女の半生


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 もしかして彼女は、人を信じやすくて、押しに弱いタイプなのではないだろうか。例えばキャッチセールスにまんまとひっかかってしまうような。色々なことを差し引いても、やっぱりそう思うのである。

 北九州連続監禁殺害事件。2002年3月早朝、1人の少女が監禁されていたマンションから逃げ出し、祖父に助けを求めたことから事件は発覚する。逮捕されたのは元布団販売会社経営の松永太(当時40歳)、そして今回の主役、緒方純子(当時40歳)。(この複雑な事件の詳細については関連書籍が多数出ているので、そちらをご覧になることをオススメする)2人は少女を監禁していただけでなく、同じくかつて同居に至った少女の父(当時34歳)、そして緒方の家族である父親(当時61歳)から甥(当時5歳!)まで合計7名を拷問と通電によるマインドコントロールで支配下に置き、ウソを吹き込み疑心暗鬼にさせ、財産を搾り取り、そして互いに殺させていたのである。またその遺体処理方法も、ノコギリで分解後、ミキサーで粉々に砕いたり鍋で煮込んだりしてトイレや海に流すという徹底的かつ凄惨きわまりないものだった。

 被害者7名という結果に、福岡地裁小倉支部で05年に下された一審判決は当然ながら双方ともに死刑。

 07年1月から始まった控訴審。法廷に現れた緒方は、小さな体に、つやのないロングヘア、いつもロングスカートを履き、見た目はいかにも田舎の保守的な女だった。芸能人並みに顔が小さいが、その表情は暗く、世の中の不幸が一気に押し寄せたような、近寄ると自分も運気を吸い取られそうな、いかにも不運な女といった雰囲気だ。かたや松永は、7名も殺害した罪で起訴されているとは思えない程の明るい表情で現れるが、そわそわと落ち着きがなく、九州なまりも抜けず、こちらも田舎のオジさん風。お世辞にもイイ男とは言えない。

 しかしこんな男に、実家の財産だけでなく家族まで全て奪われてしまうなんて、一体緒方には何があったのか。

 2人はそもそも高校の同級生。卒業後、接点はなかったが、短大卒業後、幼稚園の先生となった緒方のもとへ、詐欺的な布団販売商法で生計を立てていた松永が電話してきたことが地獄の始まりとなる。

「彼への疑い、なんとなくずっとあったんですが『愛してる』だの言われ、またそれを裏付けるように電話も頻繁になっていって、信じるようになったと思います」

 そして2人は肉体関係に。

「その頃いわゆる、これが恋愛なのかなって思いました。主体性がないとかそういうことじゃなく、体の関係が出来た時点で、妙な、私自身、古い考え方を持ってると思われますが、そういう......純血主義っていうか、そういうのアタマにありました。松永の話、疑うことなく、すごい人だと思い惹かれていった......。若くして起業してること、いろんな圧力を跳ね返しながらマジメに頑張ってると聞いたから......」

 なんと一途で真面目な九州女だろう。今どきなかなか聞けない発言だ。しかし長所であるはずのこの一途さと真面目さがマイナスに作用してしまう結果となったのだから、世の中というのは因果だ。

 当初優しかった松永は次第に本性を見せ始めた。頻繁にホテルに呼び出され、『お前は他の男と淫乱なことをしている』と事実無根の言いがかりをつけられながら、殴る蹴るの暴力。しかし......、

「そうではない、とずっと説明するけど信じてもらえず、暴力を振るわれ続けました。私、子供の頃、一度も叩かれたことがなかったんですが、叩くからには私が何か悪いことをしているのだろう、と。それに暴力が怖くて松永から逃げるのは卑怯だと思いました。話せば分かってくれると思ってました。そういうこと、やってないから、信用してもらいたくて......」

 元来の真面目に愛情(純血主義)が加わり、緒方は松永から逃げることをしなかった。しかし、殴る蹴るだけでなく、太ももに『太』と刺青を彫られ、さらには松永お手製の通電器具による電気ショック攻撃という、壮絶な暴力を受け続け、いつしか緒方はいわゆるバタードウーマンに。彼を信じているからこそ自分を理解してもらいたいという気持ちを逆手にとられ、松永の意のままに操られる手下に成り下がってしまったのだ。自殺未遂や逃亡も試みたが、いずれの手でも松永から逃れることは出来ず、かえって凄惨な暴力を振るわれ、最終的に家族を自らの手で殺すまでに至ってしまった。

 控訴審に至ってやっと、自分が松永の支配下にあるということを認識し始めたのか、被告人質問の最後の最後でやっと感情を剥き出しにし、泣きながらこう述べた。

「甥と姪のことをよく考えます。甥は生きていれば今年15歳......。それを思うと本当に申し訳なく思います......。母に会いたい、父に会いたい......! みんなに会って、謝りたい! 話がしたいです......!」

 このように喪失感を露にしたのが事件発覚から5年後というところに、暴力支配の恐ろしさを感じさせる。その張本人・松永は笑顔で元気よく、

「支配はなかったんです! 客観的な証拠に基づいて、支配という抽象的なものに惑わされることなく、公正な判断を望みます!」

 と述べ、最後まで堂々とした極悪人ぶりを見せつけていた。

 判決では緒方が松永の支配下にあったことが認められ、彼女のみ原審破棄、無期懲役に減刑(松永は控訴棄却・死刑)。「特異な人格を持つ松永の主導の下、追従的に犯行に関与した。再犯の危険性が高いとは言えない」と認定されたが、検察側は「到底承服できない」と上告。現在、両名とも上告審の公判待ちである。

 控訴審では、松永は出会った当初「音楽をやっている」など、なんとなく胡散臭いウソを織り交ぜ、カッコつけていたことも明らかになっている。それも相当怪しいが、そもそも付き合う前から「愛してる」だの大げさなことを言う男なんて、あんまり信用できないと思うのは筆者だけだろうか? 天然記念物並みに尊い緒方の『純血主義』だが、主義を貫く相手が悪いと、自分の人生だけでなく、他人の人生もメチャクチャになってしまうのだ。支配下に置かれていたとは言うものの、緒方のやったことはもちろん許されることではない。でも、自分はなんとなく、松永と出会う前に時間を戻して、もう一度人生をやり直させてあげたいような(上から目線で恐縮だが)、そんな切ない気持ちになるのである。
(文=高橋ユキ)

高橋ユキ(たかはし・ゆき)
裁判所で出会った面々と、女だけの傍聴グループ「霞っ子クラブ」を結成し、ブログ「霞っ子クラブの裁判傍聴記」を開設(現在は閉鎖)。書籍は『霞っ子クラブ~娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)ほか、『あなたが猟奇殺人犯を裁く日』(扶桑社新書)など。好きな食べ物は氷。

『乱暴と待機』著:本谷有希子/メディアファクトリー


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