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◆さすらいの傍聴人が見た【女のY字路】第2回

動機の見えない放火殺人


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※イメージ画像 photo by foreversouls from flickr

 放火を殺人行為として見た場合、例えば首を絞めたり、刺したりなど、ある程度加害者の労力が必要な行為に比べて、はるかに簡単だ。そのせいか、大変なことをやってしまったという実感が乏しい者も多い。彼女も途中までそうだった。

 B子(26=逮捕当時=以下同)は2007年1月、自宅に火をつけ、寝ていた父親(78)、母親(61)と5歳になる息子を焼死させた罪で逮捕、起訴された。家は全焼している。だが、殺された家族らと確執があった訳ではなかったし、またB子は家族を恨んでもいなかった。

 案の定、初公判では消えそうな声で「3人を殺すつもりもなかったし、死なせるつもりもありませんでした......」と涙ながらの罪状認否を行っている。よくある"殺意なし"の主張だ。

 では、何がB子を放火に駆り立てたのだろう。事件までの経緯は以下のようなものだった。

 事件当時、バツイチのB子は両親と息子の4人暮らし。と言っても、よくある二世帯住宅。2階にB子、他の家族は1階に住んでいた。

 実家に戻ってきたのは04年。弁護人によれば元夫の暴力が原因で家を飛び出したという。検察によると、その後は息子を両親に預けて育児を任せていたらしい。また、離婚したあたりから精神的に不安定となりクリニックに通院していた。

 05年、証券会社でバイトを始めるも、月14万の給料を全て夜遊びなどの遊興費に使っていたというから、なかなかの浪費家だ。

 B子は離婚後に付き合った男性が事故死するなど、けっこう辛い恋愛を経験した後、事件前年の6月からバーのDJと付き合い始めた。しかし浪費家ゆえか、その年の年末、彼氏の財布からお金を勝手に抜き取ったことがバレ、愛想を尽かされてしまう。当然ながら彼氏は別れ話を切り出したが、B子はその場で荒川に飛び込んだり、また「妊娠した」とウソをついて堕胎費用を要求したり、果ては「2人の水子を供養しに行こう」などと、存在しない水子をダシに誘ってみたりして彼氏をドン引きさせていた。

 恋愛だけでなく、仕事面でも結構な窮地に。

 アルバイトにはある資格が必要だったが、B子は3度受験して、全て不合格。「3度も不合格になってしまった人は、私の知る限り、これまで1人もいなかった」とは同僚の弁。学力レベルは推して知るべしだ。結局、別部署へ異動となり、時給も下がってしまった。この会社では通常、資格試験の受験は3度まで、とルールがあったが、幼い子どものいるB子は特例として4度目の受験を許された。しかし今度不合格だと、もはや別部署での勤務はおろか、その会社との雇用契約が継続できない可能性が高い、という切羽詰まった状態だった。

 そして事件前日の夜。なんとか彼氏(もはや元カレ?)とヨリを戻したいと思っているB子は、他愛無い内容のメールを何度も送ったりしてみたが、当然ながら、返事がない。思いあまって電話してみても、またまた当然ながら、そっけない態度を取られてしまう。

 事件はその直後の真夜中に起きた。両親に睡眠薬を飲ませ、その後寝静まった家族の周りに灯油をかけて放火。玄関の鍵をしめて逃走した直後、自分で放火したことは隠して119番通報している(その1カ月後に逮捕)。奇しくも犯行日は、資格試験の合格発表日だった。

 彼氏と仕事の将来に行き詰まっていたのは分かったが、問題は犯行後だ。

 逮捕されるまでのB子は、不審火で家族を失った被害者という立場のはずだった。しかし事件直後、B子を見舞った友人は「自分だったら半狂乱になるような出来事なのに、彼女は静かに落ち込んでいるという感じでした」と述べている。また彼氏も「事件を聞いて直感的にB子が火をつけたのでは、と感じた。お見舞いに行くと『何で私だけ生き残ってるんだろう』と言いつつも、試験の話やスノボの話をしていて変な感じだった」と証言。さらには葬式に参列した幼稚園の先生らはB子について「悲しんでいる様子がなかった、後ろを向いて話しかけたり笑ったりしていた。あっけらかんとしており、ショックを受けた」と述べており、周囲は早くから違和感を感じていた様子がうかがえる。

 逮捕前の任意の調べでも「2階で寝てたら下が火事になってた」と言ってみたり、「母親が灯油を撒いて火をつけた」などと言ってシラを切っていた。

 さらには主治医の証言。事件後に病院に来たB子は「帽子をかぶりサングラスをかけ、芸能人みたいに人目を避けるようにやってきた。『事件で顔知られちゃってぇ~』と嬉しそう」だったらしく、もはや罪悪感に苛まれて、とかそういう感情とは無縁のところにいたようだ。

 公判が始まってからは反省の態度を見せ始め、家族のことを思って泣く場面も多かった。しかし、判決は求刑通りの無期懲役。"ない"と主張していた殺意もバッチリ認定。公判では犯行時の責任能力についても争われていたが、裁判所の判断は「完全責任能力あり」。しかも「死刑をもって臨むことも十分考えられる事案」などとクギも刺されており、裁判所が死刑との間でかなり悩んだ様子がうかがえた。

「当時付き合っていた彼とのことや、試験のことで悩んで......全てを消してしまいたいという思いがあった」と動機を語っていたB子。実はこの事件の2週間前にも、兄の家の敷地に灯油を撒いて火をつけており、さらには事件の前にも2度、両親の寝ているときに部屋に灯油を撒き、感づかれていたことが明らかになっている。動機はボンヤリしている割に、やる気は半端ない。

 不思議なのは、放火の対象だ。当時のB子の"全て"というのはおそらく『彼氏と会社』だったのだから、全てを消したければ彼氏の勤めるバーなり会社なりに火をつければよかったのだ。しかし、未遂も含め一連の放火は身内が対象となっている。

 もしかして、B子は自分の存在を消したかった......??? そんな気恥ずかしい考察もできてしまうし、それもある意味そうだろうが、それよりB子は多分、身内には全てのワガママを許してもらえる、と考えていたように思えてならない。これまで彼氏の気を引くために「水子供養」など言ってみたり川に入ってみたりと、なかなかキツい行為を繰り返している。行為に共通してるのは「かわいそうな私」を演出してることだ。今回の事件は、それらの延長線上であって、自分が最大級にかわいそうな人間だとアピールするための手段であり、その結果、みんなにチヤホヤしてもらえて、彼氏も振り向いてくれる!と思っていたのではないか、と......。

 ことさらに「かわいそうな私」をアピールする女には要注意である。

 実際には、かわいそうでたまらないのは殺された3人だ。「これを飲むとよく眠れるようになるよ」とB子から睡眠薬を渡されたとき父親は「B子の言うことだから信じて飲むよ」と言って飲んだという。殺される前にも2度、灯油を撒かれている3人。両親はB子の犯行を薄々予感していたのでは、と思ってしまうのは私だけだろうか......。
(文=高橋ユキ)

高橋ユキ(たかはし・ゆき)
裁判所で出会った面々と、女だけの傍聴グループ「霞っ子クラブ」を結成し、ブログ「霞っ子クラブの裁判傍聴記」を開設(現在は閉鎖)。書籍は『霞っ子クラブ~娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)ほか、『あなたが猟奇殺人犯を裁く日』(扶桑社新書)など。好きな食べ物は氷。

『図解雑学 犯罪心理学』ナツメ社


犯罪を体系的に図解!

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