一時代を築いた監督がなぜ今!

豪華監督陣がAV難民!? 謎のレーベル「AV難民」誕生のきっかけは(前編)

豪華監督陣がAV難民!? 謎のレーベル「AV難民」誕生のきっかけは(前編)の画像1左から、バクシーシ山下監督、平野勝之監督、ゴールドマン監督

 2009年夏、AV界に突如現れた新レーベル「AV難民」。このAV大不況期を皮肉るようなレーベル名もなんかAVっぽいよなぁ……と思いながら監督陣を見ると、そこには信じ難い名前がズラリと並んでいた。ゴールドマン、バクシーシ山下、平野勝之……(現在はシルヴィア監督も参加している)。いずれもサブカルチャーの世界では伝説的な監督であり、彼らの作品に影響を受けてエロの世界に入ってくる人間もいまだに多い。

 なぜこんな有名監督陣が「AV難民」なのか? ホントに難民なのか? いや確かに最近、まったくと言っていいほど新作の情報がなかったのは事実だけど……。と思いつつ、3人の監督陣に話を聞いた。

──まず、かなり今さらですが、皆さんがAV業界に入ってきた経緯からうかがいたいんですが。平野さんは最初は自主映画を撮ってらしたんですよね? ぴあのフィルムフェスティバルで受賞したりしていらして。


豪華監督陣がAV難民!? 謎のレーベル「AV難民」誕生のきっかけは(前編)の画像2映像作家としての評価が高い平野勝之監督

 

平野勝之(以下、平野) そんな遠い過去を(笑)。そういう意味では僕は昔から変わってないですね。仕事がないっていう意味では昔も今も同じ。当時、友達のAV監督の小坂井がシネマユニット・ガスっていう制作会社と親しくしてたんで、仕事もないからなんとかしてくれよって言って、AV撮らせてもらったのが最初ですね。最初のAVは男優としてゴールドマンに出てもらったんだよね。

ゴールドマン ああ、そうだよね。僕の現場に小坂井さんと来て「平野です」って挨拶されたの覚えてる。

平野 だからもう知り合って20年だよね。89年の秋だったから。

──ゴールドマンさんは?
ゴールドマン 僕はもともと音楽やってたんですけど、当時結婚して子供もいたんで、何かお金になることやんなきゃってことで、自分にできることってAVぐらいしかないかな~と思って企画を書いたりしてたんですよ。で、たまたまアートビデオの入ってるビルの3階にある別の会社のバイトの面接行ったんだけど、落ちた。看板に「アートビデオ」って書いてあったんで、帰りに直接ドア叩いて「スタッフやりたいんですけど」って言ったら、社長が「じゃあ君、ガッツあるみたいだから監督やってみれば?」みたいな感じで、監督やらせてもらえることになって。


豪華監督陣がAV難民!? 謎のレーベル「AV難民」誕生のきっかけは(前編)の画像3ハメ撮りと言えばこの御方、ゴールドマン監督

 

バクシーシ山下(以下、山下) ガッツっていうか、たまたま寄っただけなのにね(笑)。

──そこからかなり実験的な作品も撮られてますが、もともとそういう面白いことをやりたい気持ちはあったんですか?

ゴールドマン まぁそうですね。変わったことやりたかったし、ボンデージとか変態っぽいものが好きだったんで。他のメーカーにも営業してたんで、だんだんAV監督として生活できるようになって、って感じですかね。

──バクシーシ山下さんは?

山下 僕は学生の頃にテレクラでバイトしてたんですけど、ティッシュ配ってる時にモデル事務所のスカウトマンと仲良くなって「俺はAVのスカウトやってるんだけど、AV男優って日給3万なんだぞ」って聞かされて。当時時給600円でバイトしてたんで「それはいい!」と思ったんですよね。それでAVメーカーに『男優やりたいんです』って宣材(AV女優が事務所で撮る、裸の写真と顔写真、プロフィール等が書かれた紙)送って。そしたらアホなことに仕事が来て、でも全然チ○ポが勃たなくて、っていうのを3カ月ぐらいやったのかな?


豪華監督陣がAV難民!? 謎のレーベル「AV難民」誕生のきっかけは(前編)の画像4社会派AV監督、バクシーシ山下監督

 

──勃たないわりには頑張りましたね。

山下 当時は疑似(本当には挿入せず、挿入しているフリだけすること。現在はモザイクが細かくなったことにより、疑似での撮影はかなり難しくなってきている)だから全然いいんですよ。逆に勃たないから疲れないしすごいラクなの。「これで3万! うれしい~!」みたいな感じでしたね。そのうち制作とか、撮影の手伝いをするようになったっていうのが最初ですね。

──V&Rプランニングに入ったきっかけは?

山下 V&Rの企画で、勃たない男優を集めて撮影する企画があってそこに呼ばれたんですよね。そしたらビンビンに勃ってしまって。

──あまのじゃくですねぇ……。

山下 それからV&Rの現場の手伝いもするようになったっていう感じですね。

ゴールドマン 最初はAV男優だったんだ~。

山下 そうだよ、俺、加藤鷹の先輩なんだよ!

──AV男優やAV監督といった仕事をすることに対して、抵抗はありませんでしたか?

ゴールドマン 多分ねぇ、バカなんですよ(笑)。

平野 そうそう、俺もそう。将来のこととか考えてる人はやってないよ。

山下 そうですね。そんな感じです。

平野 でも俺、なんも考えずに本名でやっちゃってたから検索とかすると一発で出てくるわけ。こないだ不動産屋で入居断られたんだけど、それもしかして検索されたのかな~とか思っちゃうよ。ま、今さらだけど。

山下 こんな時代になるとは思ってなかったもんね。

ゴールドマン だいたい地下の文化だから、表には出てこないし記録に残るようなもんだと思ってなかったですよ。

山下 ゴミみたいなもんだと思ってたよね。

──そこから皆さん、いろいろと話題になる作品をリリースされて、ゴールドマンさんだと『なま』(60分ワンカットの作品/アートビデオ)、平野さんだったら『由美香』(当時プライベートでも恋人だった女優の林由美香と東京から北海道まで自転車で二人旅する作品/V&Rプランニング)山下さんだったら『女犯』(あまりに壮絶なレイプシーンが本物だと受け取られフェミニズム団体に抗議される/V&Rプランニング)など、そういう作品がもう90年代からずーっと一部では「すごい」と言われ続けて、そのイメージが世間では残っているので、このお三方が「AV難民」というレーベルから作品をリリースした、と言うととても驚かれることが多いんですよ。「あんな才能のある監督さんが何で難民なの!?」とか「平野さんって天才じゃないの?」とか言われたりして。

平野 アッハッハッハ(笑)。

山下 天才がゆえにだよね。

──2000年代に入ってからの、皆さんの状況って実際はどうだったのかお聞きしたいんですが。レンタルビデオの時代からセルビデオの時代に変わって、かなりAVを取り巻く状況も変わっていますが、そういう影響もありましたか?

ゴールドマン 僕らの頃はレンタルしかなかったのが、ビデオ安売王からソフト・オン・デマンドというメーカーが出てきて、全体的に「お金が中心」って感じの世界になりましたよね。そしたら資本家たちはまず僕らのことなんて知らないし、相手にされないんですよね。

──逆に有名になっていたから、大御所は使いづらいというような理由で避けられるという現象はなかったんですか。

山下 やっぱ一番の理由は、めんどくさそうに見えたんだと思いますよ。

平野 そうそうそう。俺なんかホント「めんどくさそう」ってイメージあるらしくて、どこ行ってもそう言われる。俺、ホントみんなの言う通りにやってるのに、なんでめんどくさいって言われるのか分からないんだよね。言う通りにやってんだよ? まぁ、自分の意見は一応言うけど、基本言うこと聞いてるのにさぁ……。

山下 その「自分の意見を言う」ってとこがめんどくさいんじゃない?

平野 ロボットみたいに言うこと聞く監督がいいのかなぁ。

ゴールドマン 今のAV監督は「工場長」みたいな立場なんだと思うよ。僕らは別に主張を入れようとか思ってるわけじゃないんだけど、いっちょまえに考えちゃったり、学校で言うとクラスの中の変わったヤツみたいな感じだから、そういうのがやっぱめんどくさく見えるんじゃないかなぁ。あとユーザーの意見を100%実現して欲しいっていうのがセルAVの世界の基本としてあるから「そいつの意見を何で聞かなきゃなんないの?」って思っちゃったりするし。

──ユーザーの意見と言っても、AV観てハガキやメールを送ってくるのは本当に一部の、どちらかというとマニアックな方が多いですからね。

ゴールドマン そうなんだよ。送ってきてるヤツもクラスの中で言えば変なヤツなの。なのに何でそいつの言うこと聞かなきゃなんないのかな~みたいな。

平野 あと、やっぱり実用度が上がってきてるからね。AVの実用度の基準も明快になってきて、俺なんかやっぱり「すき間の人」って感覚あるから、実用度とその間にあるすき間みたいなとこに入ってって食ってく感じだったからね。

ゴールドマン 今のAV制作は風俗嬢みたいな仕事だよね。「どうしたら気持ち良くヌイていただけますか?」ってことを考える仕事。オナホールとAVが意味合いとしては同じになってる。まぁそれは当たり前だし、自分が買う立場だったらそういうものを求めるけど、この三人はもうちょっとこう、インテリジェンスがあるから……。

平野 アハハハハ(笑)。

ゴールドマン 良く言うとね。悪く言うと「めんどくさい考え方」があるから、山ちゃんとかも「何でこんなことを?」「誰が喜ぶの?」ってことをやるじゃないですか。そういうの僕は好きだけど、迷惑だよね(笑)。
中編に続く
(取材・文=雨宮まみ)

AV難民公式サイト

※1月13日(水)に新宿Naked Loftでこの三監督が出演する「AV難民」のイベントが行われます。
スケジュール、詳細はこちら

●平野勝之(ひらの・かつゆき)
AV監督、映画監督、文筆家、写真家、冒険家。
1964年、静岡県浜松市に生まれる。少年時代は漫画家を目指すが、高校で映画に出会う。ぴあフィルムフェスティバル(PFF)に3年連続して入賞を果たし、映像の世界へ。1990年からはアダルトビデオ作品を数多く監督する。その活動の幅は広く、林由美香と共に自転車で北海道縦断旅行をしたAV作品を「由美香」と題して一般映画として公開したのを皮切りに自転車3部作を完成させる。

●ゴールドマン(ごーるどまん)
昭和38年3月9日生まれ。血液型O型。
87年アートビデオ、アルファーレーベルより「電撃バイブマン」でAVデビュー。89年アートビデオよりリリース した60分ワンカットの8mmビデオ作品「なま」から本格的にゴールドマンワールドを構築。以降、一対一の プライベート感覚を武器に、ハメ撮りビデオを300本以上制作。

●バクシーシ山下(ばくしーし・やました)
1967年1月27日生まれ,岡山県邑久郡(現:瀬戸内市)出身。
衝撃的レイプ作品「女犯」でデビュー。あまりにリアルな作風から、後にフェミニズム団体から抗議を受ける等、物議を醸すこととなった。その一方で社会諷刺を題材としたAV作品を手掛るなど、「社会派AV監督」の異名を持つ。V&Rプランニング退社後はフリーで活躍、ハマジムやナチュラルハイなどで作品作りをしているが、編集の遅さと失踪癖により、コンスタントに活動はしていない模様。代表作には「女犯」シリーズ、「ボディコン労働者階級」、「激犯」など。著書には『セックス障害者たち』、『私も女優にしてください』(共に太田出版)等がある。

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