ラッシャーみよしの「エロ業界栄枯盛衰物語」第11回:1987年

風俗業界震撼! エイズ・パニック

aids_t.jpg1987年1月発売の「週刊新潮」より

 統計によると、2008年度のHIV感染者数は1126人、エイズ患者数は431人だそうです。6年連続増加中ということで、ヒタヒタとエイズが広がっているわけですが、これでどうしてみんな騒がないんですかね。

 むしろ若者の間では、「コンドームなんかいらんもんね。エイズなんか知らんもんね」という猛者が増えているとも聞きます。いやはや、慣れというのは恐ろしいもの。22年前に日本で起こったエイズ・パニックを覚えている人なんて、もういないのではないでしょうか。

aids_02.jpg1987年1月18日発売の「朝日新聞」より

「事件」は1987年の1月に起こります。厚生省が「神戸市内の風俗店で働いていた女性がエイズに感染。日本国内初の女性患者を確認」と発表し、この女性が1月20日に死亡。それまでは、エイズというのはゲイの病気、あるいは、外国で流行している我々とは無関係の病気と思われていたものが、異性間のセックスでも感染する。しかも、女性は性風俗従事者だというので、大騒ぎになったんですね。

 といいますか、マスコミがあおりにあおりました。「エイズ菌がまかれた街、神戸!」とか、「神戸の女性29才、100人以上と交渉!」みたいな見出しが連日飛び交い、女性の葬式にまでマスコミが殺到するという尋常ならざる事態。不安になった人たちが保健所に押しかけ、HIV検査を受けまくったというのが87年のエイズ・パニックです。この騒動は「神戸事件」として世相・風俗史の中で知られていますが、人々の間でのエイズの正しい知識がまだ十分でなく、「感染者と銭湯で一緒になっただけで感染する」とか、「キスだけで感染する」といった誤った情報が広まり、その後の20日間で、全国のエイズ相談窓口に5万2,000件の相談が寄せられたといいます。

 当然、これによって大打撃を受けたのが風俗業界。特にソープランドは開店休業状態となり、どの店も閑古鳥が鳴いていました。

 当時、すでに風俗ライターとして全国の風俗を取材していたラッシャーですが、この時は本気で思いました。

「風俗はどうなるのだろう……」

 ところがこの後、ぼくはとんでもない光景を見ることになったのでした。

 関西のソープ街は文字通り壊滅状態。関東もその余波で、吉原をはじめ有名なソープ街が閑散とし始めていた頃、いつものようにピンサロに一本抜きに行ったんですね。

「ピンサロも客が入らずにガラガラだろうなあ……」

 ところが、いつも行く巣鴨の花びら回転の店に行ってみると、ガラガラどころか普段にも増して長蛇の列。地下のドアにつながる階段にギッシリと人が並び、路上にまで溢れています。

aids_03.jpg風俗ファンのピンサロ愛は山よりも高く、海よりも深いようで……

「なんじゃ、こりゃ!」

 ピンサロといえば、生尺、口内発射がウリ。まして、花びら回転などといえば、何人も何人も女の子たちが入れかわり立ちかわりカポカポ、カポカポ。彼女たちの口の中にザーメンの嵐が吹き荒れています。

 これ、よく考えると、もっとも病気に近いのでは? しかし、ピンサロ・マニアには通用しないみたい。それどころか、パニックでライバルの客が来ないんじゃないか、と期待してくるから逆に普段より客が多くなってしまった様子。かく言うぼくもそうですね。指名している女の子は人気者なのでいつも3人、4人かけもち。今ならゆっくり遊べると思っていたら「すいません、1時間待ちです!」と。

 みんな同じことを考えていたわけですね。そういえば、台風の時も同じような現象になります。いやはや、さすが「他の客のチ○ポをしゃぶったばかりの口と平気でディープキスできる」ピンサロの客(ラッシャー含む)です。

 そういえば、ぼくも「エイズなんぼのもんじゃい!」とみんなに豪語していたものです。エイズ・パニックさえ歯牙にもかけなかった当時の花びらマニア同士諸君に乾杯。ピンサロの客というのは風俗ファンの中でも別格ですからね。

 でも、体には気をつけましょうね。

※HIVの感染経路は性的接触・血液感染・母子感染の3つです。HIV感染を防ぐために、コンドームの正しい着用を。

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