泡沫候補ダイジェスト2009 マタヨシ、スマイル、幸福実現党

doctor.jpg愛国心は人一倍強い? ドクター中松氏

 普通選挙に限って見られる、「デュヴェルジェの法則」というものがある。「次点より低い順位の候補者の得票数は選挙が行われる度にゼロに近づいていく」、すなわち、下位で落選すれば落選するほど、次回以降当選の見込みがなくなる、という残酷なものだ。

 民主党が歴史的な大勝を遂げた今回の衆院選。民主が獲得した308議席は、単独政党の獲得議席数としては、昭和17年の賛選挙で翼賛政治体制協議会が獲得した381議席に次ぐものである。「強権的な政府が生まれるのでは」との懸念に繋がるのも無理はないところだ。

 そんな中、自民・民主のどちらにも組せずに「独自の闘い」を繰り広げた多くの候補たちがいる。返金される見込みのない高額な供託金(※註1)を支払い、世間に「泡沫候補」とあだ名されながらも、正直一路で臨んだ彼らの選挙戦を追ってみたい。

「東京上陸宣言」以来インターネットでおなじみの候補といえば、沖縄出身の又吉光雄(65)、通称「又吉イエス」。対立候補を「地獄の火の中に投げ入れる」と宣言する彼は、今回の「政権交代選挙」にも参加、新宿副都心を中心に街宣カーを走らせ、同選挙区の他候補への敵意をむきだしにした。

 同じく東京1区の常連となっている、「日本スマイル党」総裁のマック赤坂候補。唯一神・又吉イエスと激突してもそのスマイルを崩すことはなく、車上で尾崎豊を歌うなどのパフォーマンスで1区をにぎわせた。

 好事家たちに見守られた「スマイル vs イエス」の影の闘いは、赤坂氏987票(0.3%)、又吉氏718票(0.2%)で、赤坂氏の勝利となった。もちろん両者とも、供託金の返還対象となる有効投票総数10%には遠く及ばないのだが。

 ちなみに今回の東京1区では、無所属で立候補した元特定郵便局員の前田禎信氏が、652票(0.2%)の得票で最下位となった。アニメ「コードギアス」を参考にしたという「合衆国日本」をスローガンに闘ったが、オタクに対する世間の目は厳しいのか、

「腹を切って死ぬべきである」

 と金切り声をあげて批判した対立候補以下の票しか得ることができなかった。

 前述の「デュヴェルジェの法則」に反してか、彼らの受ける扱いは、微妙にだが上向き始めている。産経新聞Webサイトに「伝説の候補者列伝」として泡沫候補特集が登場する等、着実に「政治家」に近づいているといえるのかもしれない。

 この手の候補ではすっかり古株になったドクター中松候補は幸福実現党と結託。同党の比例2位指名を得て、比例代表東京ブロックからの立候補となった。これは、「北朝鮮のミサイルをUターンさせる」という氏の発明(自称だが)が、幸福実現党の公約と共鳴したためだと考えられている。

 アメリカ大統領選で歴史的な大勝をとげたオバマ氏にあやかってか、「イエス、Uターン」をスローガンに闘ったものの、残念ながらまたの落選とあいなった。

 しかしながら、秋葉原では演説に詰めかけた若者たちにモミクチャにされたりと、局地的な人気の面では自民党の大物をしのぐ勢いをみせた。

「閣僚を務めた大物現役議員たちが、飛行機で何時間もかけて地方を遊説しても、有権者は見向きもしない。『なかまつー!』と黄色い声をかけられる姿を目にして、『あれに負けるのか』とこぼす候補者もいました」(某党選挙スタッフ)

 今回の選挙の目玉のひとつが、最多337候補を擁立した幸福実現党。大々的にテレビCMも放映し、他の「無議席政党」との差を見せつけた。

「候補者数や選挙予算から、『比例で1~2議席獲得があるかも』との予想も囁かれていました。ただ我々には『(議席をもつ)政党の公認も実績もない候補は大きく扱わない』という暗黙のルールがあるので、大きな扱いはしませんでしたけどね」(某紙政治記者)

 大手紙に広告を打つなど、議席をもたない政党としては珍しく、メディアを活用した幸福実現党。前衛的な政見でお茶の間の話題をかっさらっていったが、議場の席までとはいかなかったようだ。

 衆議院議員に立候補するための供託金は、1候補あたり300万円。幸福実現党は10億円を国庫に納めたことになる。

 半ば「金持ちの余興」になっている感もある諸派候補たちの政治劇だが、幸福実現党が10億円を投資した真意はいったいどこにあるのだろうか!?

 政権交代という大きなテーマの下で闘われた今回の総選挙。「政治って堅苦しい」というイメージも、その影にある「個人の闘い」に注目してみると、大きく変わるのかもしれない。次回2010年の参院選は、大手メディアが大きく扱わない彼らの闘いに注目してみては!?

※【註1】供託金
公職選挙立候補者が法務局かその下部機関に寄託するお金。法定得票数に達しない場合には没収される。選挙における候補者の乱立を防ぐために定められている。衆院選(小選挙区)の供託金は300万円で、法廷得票数は有効投票総数は10%となっている。

 

『ドクター・中松の発明伝説―スリル・サスペンスとロマン』

 
すっかり選挙の風物詩?

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