AVライター・雨宮まみの【漫画評】第1回

一片のムダもない間違いなしの山本直樹のエロ・ベストワークス!

yamamoto4.jpg『夕方のおともだち』『明日また電話するよ』山本直樹著(発行/イースト・プレス)

 ヤる前にセックスの相性なんてわかんないだろうけど、私の場合、ひとつ有効な質問がある。「山本直樹、好き?」だ。「あーいいよねー『ありがとう』とか傑作だよねー」と言われたら、男としては興味をなくす。友達にしかなれない。じゃあ、どの作品を挙げられればついていくのか、答えはこの2冊の中に全部詰まっている。

 山本直樹の自選ベストワークスが出ると聞いたときは「どうせ全部読んでるよ」と思った。買わなくていいと思った。でも、読んでみたら驚くほど心が揺れた。あれもこれも暗記するほど読んで恥ずかしい行為のネタにしたものばかりで、そのエロ密度に息が詰まりそうになった。そうだ、これが山本直樹だ。

 この2冊の中で、3つだけ私が「抜けない」作品がある。それは表題作の『明日また電話するよ』『夕方のおともだち』と『肉彦くんとせんせい』の3つだ。抜けない理由は、ストーリーが自分の中で勝ちすぎていて、この中でいいと思う作品を3つ選べと言われたらこの3つを挙げるかもしれないくらい好きなのに、感情移入しすぎて、切なすぎて抜けない。特に『肉彦くんとせんせい』は、読み返すのが苦痛なくらい、つらい。

 性欲は、セックスは、深くまで描きすぎると刺さるものになる。人の心にまったく無関係なものではないからだ。刺さるものになったら、痛くて、ポルノとしては成立しにくくなる。『夕方のおともだち』の巻末のインタビューで山本氏は「『ギリギリお話になってる』っていうくらいのが、自分では好きなんです」と語っているが、まさにその言葉が、ポルノの本質を指しているように思える。ぎりぎり刺さらない、痛くない、そしてむちゃくちゃいやらしく、ストーリーがムードのように柔らかくえげつないセックスの周りを漂っているタイプの作品が、このベストワークスの中の8割を占めているのではないかと思う。

 これは、山本直樹氏にとってだけの「ベストワークス」ではない。私のような、「エロい山本直樹」が好きなすべてのファンにとっての「ベストワークス」だ。

 男と女の、セックスに対するファンタジーが全然違っているなんて、うそだと思う。個人差があるだけで、似たり寄ったりだと思う。山本直樹の作品を読んでいると、男の性欲とがっちり握手できたような喜びで胸がいっぱいになる。そうだよ、こういうことがしたいんだよ、こういうことされたいんだよって思う。

 最後に、ファンなら誰でも言いたがるであろう「あの作品も入れて欲しかった」というリクエストを書いておくと、「マンガ・エロティクス」の創刊号に塔山森名義で掲載されていた作品が入っていて欲しかったなと思うけど、そっか、名義が違いますね……。ざんねん。
(文責/雨宮まみ)

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